劇場公開日 2015年12月12日

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「演じることの彼方へ」ハッピーアワー 太陽傳さんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0演じることの彼方へ

2016年6月30日
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鑑賞方法:映画館

上映時間5時間17分、やはり映画館へ行くのに少し怯んだのは事実。しかし冒頭からの素晴らしいシーンに引き込まれてしまい、ただただこの映画を観ている時間がこのままずっと続いてほしいと思うようになりました。でもプロの俳優さんではなくほぼ素人さんらしい。演技経験不問でワークショップに応募された人たちから選考を経て17名の方たちからスタートしたとの事。しかし演者と役がぴったりと重なっているかの様なこのリアリティー感は何なんだろうと感ぜずにはいられません。
映画の「演技」って何なんだろうと、改めて考えた時、役者はその役に恰もすっぽりと入り込み、観る人に如何にリアリティーを感じさせるか、という事になるのかも知れません。プロの俳優は磨き抜かれた演技で様々な役柄をその役に成りきり、役作りをします。種々雑多な役を私達の前にその人に成りきったかのように演じます。その演じることの集積の結果として映画はフィクションであるにもかかわらず、私達に恰も「本当」のことであるかの様に説得性を持ちます。役者が「役者であること」の必然性がここにあるかと思われますが、その演じることの方法を、ラジカルに覆してしまったのが「ハッピーアワー」では、と思ってしまいます。ほとんど演技経験のない人を集め、プロの役者とは次元の異なった演技の付け方《一例:シナリオの読み合わせの際、抑揚も付けず感情移入もせず棒読みを繰返しながら台詞を覚えていく》によって次元の異なったリアリティーを私達の前に差し出されたこの映画は、奇蹟としかいいようのない衝撃でした。
冒頭三十才代後半の女性四名がケーブルカーに揃って横並びに座り摩耶山へと登って行くシーン。観客である私達も彼女らと共に誘われるかのように、山上の映画という名の異空間の世界へと運ばれる。晴れわたっていたのに、頂上は白い霧雨に包まれ、期待していた眺望は望むべくも無い。彼女らは雨を凌ぐ東や風の休憩所で手作り弁当を前にたわいのない話に耽っている。しかし周りは濃霧に閉ざされ、この世から何か孤絶されたような不安な不穏なものに纏わり憑かれたかのように予感させられる。そしてケーブルカーで降りて行く彼女らを待っているのはどのような世界なのだろう。
四名の主人公の各々の人生が語られ始め、徐々に日常から非日常への転変を、「省略」という映画技法を敢えて駆使ぜず、たゆたゆ如くゆっくりと一人ひとり追っていく。
ということで5時間17分になっているのでしょう。
最後にお願い! 長尺ものですがどうかもっと上映して下さい。関西では神戸元町映画館で昨年12月と今年4月、京都の立誠シネマで2月に上映されただけです。それ以外の館主さん、宜しくお願いします。

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太陽伝