劇場公開日 2016年5月14日

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「2016年上半期、一番泣けた映画」殿、利息でござる! ちな姉さんの映画レビュー(感想・評価)

4.52016年上半期、一番泣けた映画

2016年7月3日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

2016/06/16、MOVIX亀有で鑑賞。先日コンセチャレンジで当たった無料鑑賞クーポンを使いました。

例によって原作(磯田道史『無私の日本人』所収『穀田屋十三郎』)も読んで予習はバッチリ。
正直なところ、原作には説教臭さを感じてしまい、感動はしたものの、読後感はあまりよくなかったのです。
でも、『無私の日本人』というタイトルの本を、『殿、利息でござる!』というタイトルで映画化するセンスと、主役の穀田屋十三郎が阿部サダヲさん、というところに期待して、観に行きました。

期待以上でした。
今年観た映画の中で、一番泣きました。
そういえば、『予告犯』の中村義洋監督だったのですよね。
『予告犯』も泣かされて、わたしの去年観た映画のナンバーワンを争っているのです。(日によって、『レインツリーの国』と1位2位が心の中で入れ替わります。決めきれない……。)

人のために何か役に立つことをしたい、という気持ちはもちろんわたしにもあります。ありますが、そのときにはちょっとでいいから誰かに褒められたい、という欲も、正直あります。
遠藤寿内(西村雅彦さん)の振る舞いが、観ていると笑っちゃうんだけど、でもその気持ちもわかる、という感じ。
それだけに、彼らの「つつしみの掟」は、古き良き日本人ならでは、といった感じで、心に響きます。
ここまで人のためにすべてを投げ出せるものか、そしてそれを誇らずにいられるものかと。

あと、わたしは、自分の育った家庭環境が複雑なので、家族との確執と和解を描かれると弱いです。
兄(長子)なのに穀田屋に養子に出された十三郎と、弟で実家を継いだ浅野屋甚内(妻夫木聡さん)。
原作ではなぜ長子が養子に出たかは書かれていないのですが、そこにドラマを作り出すところが、本当にうまいなあと思います。
二人の父親が山﨑努さんで、いかにも厳しそうでがめつそうに見えて実は、というのも、ぐっときました。

前述の遠藤寿内が、最初は儲け話と勘違いして、そのあとは見栄のために参加するところとか、菅原屋篤平治が心ならずも巻き込まれていく感じとかは、コミカルで面白かったですね。
実在の人物なのにこんなふうに描かれて、菅原屋さんのご子孫は大丈夫かしら、と思いましたが、原作によれば篤平治には子がなかったようなので、まあいいのかな?
穀田屋さんは、いまもお店が残っているそうです。

ちょんまげが銭になっているポスターと『殿、利息でござる!』というタイトルから、完全なコメディを予想して観た人の中には、裏切られたと思う人もいるでしょう。
こういう方向のプロモーションでよかったのかしら? とは思います。
わたしは「原作を読んでから観る派」だから、これがコメディで終わる話でないのはわかって観に行ったわけですが、「すべての観客が事前に原作を読む」なんてことはありえないわけで。
原作を除けば、わたしが得ていた事前情報は、タイトルとポスターと「羽生結弦さんが伊達の殿様役で出演!」というニュースぐらいだったので、笑いを期待して映画館に行って期待外れで低評価のレビューを書いている人がいるのも仕方がないような気はします。

そういえば、羽生結弦さんは見事でした。
やっぱり世界で戦っている、しかもオリンピックとグランプリシリーズと世界選手権の三冠なんてやってのけたことのあるトップ選手は、舞台度胸がありますね。
もちろんプロの役者さんではないので素人っぽさはありますが、そこがこの映画では、殿様が下々とはかけ離れた存在であることを示す味付けになっているように思いました。

あと、萱場杢(松田龍平さん)が、とても酷薄でよかったです。まあイヤな奴でした。
美形が冷たい目をすると本当に怖いですね。
ほかのキャストも豪華で、とても見応えのある映画なので、ぜひ公開中に劇場でご覧ください。

ちな姉