劇場公開日 2015年6月27日

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「運命のハイウェイ」オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0運命のハイウェイ

2019年8月13日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

興奮

知的

一人の男が夜のハイウェイを車で走る。電話でやり取りしながら。
ただそれだけなのに、男が破滅へと走っていくサスペンスフルな作品として成り立っている。

男の名は、アイヴァン・ロック。
家族あり。
家では子供たちが父親と一緒にスポーツ観戦するのを楽しみに待っているようだが、アイヴァンは仕事を終え、帰宅する…訳ではないようだ。
では、何処に向かっている?

アイヴァンは有能な工事の現場監督。
翌日、大規模な作業が控えている。
その前日にも拘わらず、上司や部下から電話が掛かって来ようとも、ひたすら車を走らす。
彼が向かっているのは…

ロンドン。
以前たった一度だけ関係を持った女性が妊娠し、今病院に居て、まさにこれから出産しそうなのだ。
それに立ち会う為に。
言うまでもなく、不倫。
この夜はアイヴァンにとって人生の別れ道。
電話で妻に全てを打ち明けるが…

妻は大激怒。ヒステリックにもなり、アイヴァンを家から追い出すとまで言う。
さらに、仕事関係の電話が。トラブル発生。電話越しに対応するが、部下は困惑し酒を飲み始め、しびれを切らした上司から解雇通告が…。
さらにさらに、ロンドンの病院から電話。へその緒が胎児の首に絡まり、危険な状態。不安がる不倫相手の声…。

妻をなだめ、
トラブルに対処し、
不倫相手を安心させ、
それらが代わる代わる。
やり取りがどんどんヒートアップしていくのと並行して、アイヴァンの焦燥や苛立ちも募っていく。
うるさいほど掛かってくる電話にうんざりした事は誰しも経験ある筈。自分も然り。
いよいよ我慢出来なくなり、「ファック!」と叫び、怒号を上げる。
それでもアイヴァンはロンドンを目指す。
時折アイヴァンは、誰も居ない車内で誰かと対話する。幻影のある人物と自分は違うと言い聞かせながら…。

たった一人の車内という、異色のワン・シチュエーション。ほぼリアルタイム。
電話だけでやり取りする会話劇でもあり、主人公が置かれた状況や緊迫感など構成や展開が巧みで、飽きさせない。
そして、一人芝居。トム・ハーディの熱演が圧巻。
いつものタフなイメージは抑え、平凡な男の様々な感情を見事に表している。

延々続く夜のハイウェイは、まさに出口の見えない状況に陥った主人公の運命そのもの。
家族も仕事も失い、自業自得でもある。
果たしてこれで良かったのか…? 道を間違えたのか…?
そんな時電話から聞こえてきた、ある“声”。
それがこの男のこれからに明となるか暗となるか見た人それぞれの受け止め方次第だが、やっと一つの出口が…。

近大