劇場公開日 2015年6月27日

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「「STILL ALICE」に感じるそれぞれの想い。」アリスのままで 年間100本を劇場で観るシネオさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5「STILL ALICE」に感じるそれぞれの想い。

2015年7月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

知的

オスカー系は
全て観るという信念のもと、
主演女優賞ジュリアン・ムーアの
女優力を楽しみにしていました。
原作は女流作家リサ・ジェノヴァが、
詳細な取材によって書き上げたベストセラー。
ほぼノンフィクョンに近いだろうストーリーも、
リアリティが好みの僕は、
期待せずにはいられません。

映画は若年性アルツハイマーである
ヒロインが一人称で描かれています。
その一人称を全て背負った
ジュリアン・ムーアは圧巻の名演技。
オスカー受賞は、やはり納得でした。

それに加えて
夫アレック・ボールドウィン始めとする、
サブキャスト陣の内面を描く演技が素晴らしい。
両者の対比する視点のバランスが、この映画の魅力でした。
俺がついていると妻に言っておきながら、
仕事のチャンスが訪れると妻の介護を娘に任せる夫。
結局長男でも長女でもなく、
定職をもたない次女が、夢を捨てて介護をする。
そんな数々のディテールに
とてつもないリアリティを感じました。
そうそう、
アレックは、
ブルージャスミンの名演も記憶に新しいですね。
酸いも甘いも経験してる男は、こういう役は抜群だな。

演出は王道で安定感があり、無駄が一切ありませんでした。
心情を表すカメラワークやフォーカス表現も絶妙。
監督の力を感じました。
自らもALS(筋委縮性側索硬化症)だった
リチャード・グラッツァー監督は、
この作品が遺作になってしまったようです。
とても残念です。

この題材でまず最初に思い浮かぶのは、
渡辺謙さん主演の名作「明日の記憶」ですよね。
やり手の広告代理店部長が
若年性アルツハイマー病を煩って、
あっという間に落ちていく。
秀作でしたが、
こちらの方が覚書や自分に残すメッセージ等、
共感するところが多かったです。
葛藤をメインにするのではなくて、
病気進行の過程でのヒューマンドラマが、
丁寧に描かれているからでしょうね。

優秀な人程、
進行が早い若年性アルツハイマーは、
その苦悩は計り知れないものでしょう。
記憶を失うということは、
自分が自分でなくなってしまうということ。
スピーチの中で、
「記憶を無くしていく中でも、幸せな瞬間がある」
その主人公の力強さに、感動せずにはいられない。
記憶はかけがえのない財産なのに。
果たしてそれを自分は受け入れられるのか。
身内がそうなった場合、どんな対応が出来るのか。

4人に1人が認知症にかかる日本。
決して人ごとではないテーマに、
いろんな立場の人が、
自分に投影して考えさせられる映画です。
最後の「STILL ALICE」のスーパーの意味は、
それぞれ想いが違うと思います。
自分なりに考えるは、
いいかもしれませんね。

おざなりな言い方だけど、
人生の気づきをもらえるのも、
映画の魅力のひとつ。

観るべき秀作です。

年間100本を劇場で観るシネオ