劇場公開日 2015年6月27日

  • 予告編を見る

「邦画が描くべき 使命を感じた、秀作です。」きみはいい子 年間100本を劇場で観るシネオさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5邦画が描くべき 使命を感じた、秀作です。

2015年7月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

怖い

こういう映画は苦手なのだけど、
呉美保監督の評判が良いので、
映画館で観たくなりました。

原作は坪田譲二文学賞の、
中脇初枝「きみはいい子」。
「サンタさんの来ない家」「べっぴんさん」
「こんにちは、さようなら」の3編が絡み合うように、
映画は構成されています。
いじめや学級崩壊、
児童虐待に障碍児を持つ親、
再婚相手の暴力、高齢化社会など、
様々な日本の闇が題材でした。

もうこれ程までにリアルが突き刺さってくる
映画を観たのはいつ以来だろう。

演出は全篇に渡って、
リアルにみせる描写がぐっときます。
きっと
カメラが一歩下がっていて
寄り切らないし、引きすぎない。
そんな俯瞰描写と
心情を表現するカットインが秀悦でした

そしてキャスト同士の距離感が絶妙。
ドキュメンタリーのような手法で、
説得力を積み上げていく。

そこに、
高良健吾さん、尾野真千子さん、池脇千鶴さん、
高橋和也さん、喜多道枝さんの、
安定した演技が深みを与えていきます。
特筆すべきは
子どもたちの演技。
虐待される幼児の女の子は、
まだ5歳くらいなのかな。
ママに愛されない心の描写が、
くっきりとしている。
再婚父の虐待に悩む4年生の少年は、
誰も信じられない鉛のような眼をしている。
パニック障害をもつ少年は、
精神状態の移り変わりを、
繊細に表現している。
こんなリアルな子どもの演技を、
今まで僕は見たことがなかったです。

高良健吾さん演じる先生の姉、子育てママがいう言葉。
「息子に優しくすれば 息子は他人に優しくする。」
そこから気づいた彼が、
子どもたちに出す宿題から、
物語は少しだけ前向きになっていく。
けど、どのエピソードも
結局問題は解決されない。
それがまたリアリティ。

決してその人にしか分からない
辛い毎日も、
誰かのちょっとした一言で救われる。
そして、
大人も子どもも、
生きていくのは大変な世の中だけど、
根は「みんないい子」。
呉美保監督は、
時にやさしく時に強くメッセージしている。
邦画が描くべき使命を感じた、
名作でした。

そういえばうちの奥さんは、
子どもが幼い頃よくハグをしていた。
何回もぎゅーっと抱きしめて、
好きだよと言っていた。
きっと何かの本で読んだのだろう。
おかげで中高2人の子どもたちは、
やさしくて思いやりのある、
いい子に育ってくれた。
幼児の子育て中や、
これから子育ての人は、
たくさん抱きしめてあげてください。

百円の恋にさよなら歌舞伎町。
テアトル新宿で観る映画は、
ホントに当たりが多い。
コアファンもついている気がする。
シネコンで娯楽作が大量に消費される時代、
良質邦画のために、
このスタンスを続けて欲しいですね。

年間100本を劇場で観るシネオ