劇場公開日 2015年9月12日

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「今ここにある危機」天空の蜂 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0今ここにある危機

2016年2月14日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

興奮

映像化不可能と言われた東野圭吾の1995年発表の小説を映画化したサスペンス大作。
約20年後、作中で訴えた原発の危険性がまさか現実のものになるとは、作者本人が一番驚いている筈。
その昔、「ゴジラVSデストロイア」でメルトダウンという言葉を初めて聞いた時、そんな専門用語があるんだぁ…ぐらいにしか思ってなかったのに、これもまさか現実社会で聞くようになるとは…。

原作未読。
それでもかなりカットされている事や急ぎ足なのが目に見えて分かる。
まず、冒頭。
ビッグBが強奪されるまでの流れが早い、早い!
まるでダイジェスト的で、何だか開幕早々置いてきぼりを食らった感。
ビッグB内には開発者の息子が乗り込んだまま奪われてしまい…というご都合的危機、確執ある父子、父は息子を救えるか!?…といういかにも邦画らしい湿っぽさ。
このまませっかくのスリルある題材を活かせないまたよくある邦画サスペンスになるのかと思いきや、中盤辺りからグングン面白くなってきて、なかなかに見応えある硬派エンタメ+痛烈メッセージになっていた。

湿っぽくなると思っていた主人公の息子の救出作戦が結構手に汗握った。
端から見れば正気の沙汰じゃない救出作戦。
ビッグBから落ち…なんてシーンはヒヤッとさえした。
緊迫感溢れる画作りは見事。

これでめでたしではない。
最大の危機はこれから。
奔走する原発職員、ビッグB技術者たち、強奪犯人探し、そして内部に居る真犯人と協力者…。
たたみかけるスリルと展開。
後半失速する邦画サスペンスが多い中で稀な緊張感途切れない演出。
監督は堤幸彦。
本人にとってもこれほどの大作サスペンスは初だった事に後から気が付いた。

正直、犯人たちの動機はちと弱いかな、と思った。
一方的な逆恨みでしかないような…。
と同時に、劇的なものではない現実にも起こり得そうな動機とも感じた。
見たくないものから目を背ける。
見て見ぬふり。
偽りの仮面を被り続ける。
その下で踏みにじられる一部の少数派たち…。

平和ボケ、何を基準に言える絶対の安心安全。
大衆も政府も起きてから他人事のように大騒ぎする。
もし、更なる深刻な事態が起きた時、本当にこの国は大丈夫なのか。
想定外の危機はもはや絵空事じゃない。

近大