劇場公開日 2018年10月6日

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「話はメロドラマだが、雰囲気や人物描写だけで充分楽しめる」チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛 雨はにわか雨さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5話はメロドラマだが、雰囲気や人物描写だけで充分楽しめる

2018年11月9日
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修道院で育った貧しい若い美しい女が年配の金持ちの嫁となるが、肖像画家と恋に落ちてしまう —- というあらすじからしていかにも女性向けの印象で、オッサンの自分は見るつもりではなかったのですが...

たまたま時間が合い見たところ、充分楽しめました! 見てよかったです

・時代の雰囲気が全体に非常によく出ているのでそれを見ているだけで楽しめる

・その時代と境遇のなかでのいろいろな人間の有り様が見られる

この二点に興味あるかたなら男女問わずオススメします

——以下、プロットの具体的なネタバレはしませんが、多少詳しい話——-

修道院で育った孤児のソフィアが嫁いで行くとき修道長は言う「子どもができれば安泰です。夫を愛し、敬い、従いなさい」

夫は香辛料の貿易で財を成した成功者。再婚だが子どもはおらず、後継ぎとなる子どもを強く望んでいる

ソフィアを娶ったのは何よりもまず子どもを産んでほしいからであり、そして肖像画を描かせたくなるくらい若く美しい妻が自慢となるからでもある

しかしソフィアは肖像画を描きにやって来る画家とやがて激しい恋に落ちてしまう

そりゃそうだ、夜のベッドで「我が兵よ、立ち上がるのだ!」などと宣うオッサン(笑)よりも、若くてイケメンのほうがいいよな

自分でも何か危険な予感を察したソフィアは、当初、あの画家は替えてください、と夫に言う。わかった、では少し様子を見よう、と夫。しかしあるときソフィアは、やはりあの画家で良いです、という。画家との恋に生きることを決めた瞬間である。その心変わりがいつ起こったかという描写がうまい

そのあと話はドラマチックに進む。幾分荒唐無稽ともいえる恋愛メロドラマ的な展開はやはり女性向けと言っていいかと思う (一般論で、すべての女性の好みだと言っている訳ではありません、悪しからず)

話の筋の詳細に納得できないと展開について行けないというかたにはこの話は向かないだろう

が、最初からドラマチックな話になることは予期できたわけで、自分はそれほど気にしならなかった(もちろん具体的な話の展開は予期していなかったが)

それより、当時の時代の雰囲気が映画全体で非常に良く出ている。石畳の道、石や木材の運河に架かる橋、レンガの建物、室内の台所や居間の調度品、雑踏やチューリップの競りが行われる居酒屋の熱気、そして人々の服装。金持ちはまるで桃とかにつける発泡素材の緩衝材のようなやつを襟に巻き付けてるが(笑)、細かくはいろんなデザインがある

そしてもちろん、ポスターのとおり、肖像画はまんまフェルメールの世界。暗めの室内に窓から差し込む光。ウルトラマリンのマント?も美しい色だ

こういう一つ一つの情景が映画全体を通して非常によく出来ているので、そういう雰囲気に触れたいかたなら見ているだけで楽しめる

もう一つ大きいのがそれぞれの人物像。盛り沢山のプロットなので、あらすじ上の繋ぎのような要素はバンバン削ぎ落とされてるし、同じような繰り返しによる人物の印象付けは限られている。しかしポイントとなるシーンではそれぞれの人物像がきちんと出るように表情、間、セリフなどでしっかり描かれている

それによりプロットの激しさにもかかわらず映画としてのまとまりをとどめていると思う。そのメリハリの付け方は非常に上手い

後継ぎのほしさ、虚栄心、愛、欲望、バブルと自由と金。夫コーネリアス妻ソフィアをはじめ、画家、使用人のマリア(これは彼女の物語でもある)や魚売り、そして修道長、それぞれの境遇の人間の有り様が見られて面白い

夫のクリストフ・ヴァルツは、狡猾な悪役のイメージが強いのでそんな人物像を予想していたが、ザ冷たい夫のようないかにもありがちな設定ではなかった

成功者でありながら要所で抑制の効いた、そして自己を顧みることができる人物像になっていて、それがいろんな意味でこの話の救いになっている

修道長のジュディ・デンチは物語世界全体を支える変わらぬ定点。流石

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雨はにわか雨