劇場公開日 2014年12月20日

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「その姿、価値はつけられない」百円の恋 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5その姿、価値はつけられない

2015年6月13日
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鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

興奮

今年一月発表の2014年度キネマ旬報ベストテンで、安藤サクラの通算4度目の受賞を新鮮味ナシと思ったが、これは謝罪した上で訂正せねばなるまい。
見れば納得、当然の受賞。
しかも、「0.5ミリ」と合わせての受賞だから全く何の異論も無い。

32歳にもなって実家暮らしの引きこもりニート、一子。家を追い出され、一人暮らしと百円コンビニでのバイトを始めたある日、中年ボクサー・狩野の姿に惹かれ、自身もボクシングを始める。

安藤サクラの熱演に、文字通りKO!
冒頭、贅肉ブヨブヨの醜態。
それがどんどんシェイプアップされていき、見事なボクサー体型に。
聞けば、僅か2週間での体作りだったとか。こんな短期間で出来るものなのか! まさにデ・ニーロ・アプローチ!…いや、それ以上!
言うまでもなく、試合シーンはエキサイティング!
試合後はアザとキズだらけのズタボロ顔。
見てたら、日本の若い女優たちが情けなくなってきた。
いや勿論、可愛くて美人で魅力的で大変いいが、果たしてこれほどの入魂の演技が出来るだろうか。
日本の若い女優たちよ、もっと自分をさらけ出せ! もっと貪欲にのめり込め!

ストーリーはシンプル。
前半は自堕落、後半は一転して生気がみなぎる展開は一子とシンクロする。
一子がまた、意外と純情乙女。

一子の束の間の恋の相手、狩野役に、新井浩文。
安藤サクラとは旧知の中で、この二人のコンビならまず外れ無し。
彼も役を演じるに当たってボクシング体型を作り上げた。
何処かアブなそうな雰囲気を漂わせながら、独特の存在感を放つ、新井浩文の為のハマり役。

「イン・ザ・ヒーロー」でも熱い演出を見せてくれた武正晴監督が、情と魂こもった名演出。
間違いなく、代表作!

一子が働くコンビニの店長は鬱、同僚のおっさんはクズでウザッ! レジの金を持ち逃げしてクビになったおばさんは夜な夜な廃棄弁当をたかりに来る。
社会のどん底、掃き溜めのような場所で生きるどうしようもない人々。
その一方、一悶着あった家族は一子の試合を応援しに来る。特に、大喧嘩した妹は姉の奮闘に涙を浮かべて。
一子に呆れ顔だったジムの会長の、試合終わっての「嫌いな試合じゃなかった」に、ちょっとグッときた。

情けなくて、哀しくて、不器用で、貼られたダメ人間のレッテル。
自らを、百円の価値。
しかし、誰にだって、何かに真剣になる事がある。のめり込む事がある。闘う時がある。輝く一瞬がある。
その時、その姿、価値はつけられない。

近大
CBさんのコメント
2019年10月5日

これ、よかったです。自分にとっては後からどんどん良くなり続けるタイプでした。

CB