劇場公開日 2014年12月13日

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「勇気ある家族愛」おやすみなさいを言いたくて よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.0勇気ある家族愛

2014年12月20日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

幸せ

アフガンの自爆テロを取材する主人公の姿を追うカメラ。生と死が隣り合わせの現実を切り取っている、と言うにはあまりにも他人ごとのような表現に、苛立ちを超えて怒りすら感じる。取材中に大怪我をしても、外国人はドバイの立派な病院で治療を受け、それが済んだらヨーロッパの自分の家に帰って、家族とハグ。テロや貧困の問題をなめてるのかと思った。
しかし、長女のステファニーを伴ってケニアの難民キャンプへ行くところから、映画は我々の日常生活が抜き差しならぬ問題と直接触れあっていることを語り始める。それは、夫が放射性物質による海洋汚染について調べていることに言及することでも触れられている。
 この作品の物語の焦点はそうした世界の問題ではなく、そのような問題と無関係ではいられない家族というものに当てられている。
 安全が確保されているはずのケニアの難民キャンプで予期せず部族間抗争に巻き込まれたとき、もう紛争地には戻らないと家族に約束したはずの母親は、娘を先に逃して自分だけ殺戮現場に残って取材をする。このことで娘は母親への不信が増大するとともに、この母親のこの仕事への執着について考えるようになる。母親への憎しみと尊敬の間で揺れる、このステファニーの苦悩の表情。「こんな母親をいつの日か許して欲しい。」と懇願する母親に、「死んだら許してあげることになると思う。」と答えるシーンは胸がつまる。
 この女性報道写真家が、心配をする家族のために仕事を辞めるのか、それとも仕事を続けるのかというところがこの話の結末となるのだが、それはどちらでもよいと思える内容だった。
 なぜなら、仕事への情熱なしでは生きられない母親を一人の人間として理解した娘にとって、母親がどちらの道を選択しようとも家族として支えていくことには変わりがないからだ。
 親子の信頼関係を築く物語に、イスラム過激派の自爆テロの話まで出してくることに少々大げさな違和感を感じる。しかし、複雑化するこの世界とかかわる中で、それでも家族を信じる勇気に心が熱くなった。

佐分 利信