劇場公開日 2013年11月15日

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「2回見れば「見える」?」悪の法則 たけろくさんの映画レビュー(感想・評価)

4.52回見れば「見える」?

2014年10月29日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

怖い

知的

難しい

まず言いたいのは「すっごく怖い映画だ」ってことです。

最初、タイトルとキャスティングからの印象で、「みんな『悪いヤツ』なんだけど、互いの騙し合いのなか、最後に笑うのは誰なのか…」的な、オールスター揃い踏みの「娯楽映画」だと思っていたんですが…。全然違ってました。痛快さとは無縁の、「どシリアス」な内容です。そもそも邦題の「悪の法則」というタイトルが、上記のような誤解を生んでしまうような気もします。

この映画で描かれている世界(っていうか「社会」)では、「オレたち悪(ワル)だぜ!」という意識ではなく、「善悪?そんなの関係ないね!」っていう感じで日常を生きている人達が出てきます。そんな人達から、社会契約が機能しているなかで暮らしている我々に対して、「不自由なく日々を暮らしていると分からないだろうけど、デタラメな社会は、すぐ隣の身近なところにもあるんだよ」「人間の社会なんて、実は『何でもアリ!』なんだぜ…」と、言われてるような気がします。

キツイのは終盤。天災など「神の仕業」「世界の訪れ」によることなら仕方なく諦めるしかないけれど、ある悲劇が自分の迂闊さに起因して始まり、デタラメな日常に埋め尽くされた社会の側から、「恨み」からではなく、ゆえに理不尽なまでに一方的に、周囲を巻き込みながら自身の生活を目茶苦茶にされる…といった事態は、「善悪」に縛られている「臆病な人間」にとっては、とても受け入れ難い、底無しの困難を伴います。なにせ、ドラム缶の中の「永遠の積み荷」も「ジョーク!」ですから。

映像、俳優陣の演技、話の組み立て方、ファッション、音楽、どれも格好よく、バッチリ決まってました。ただ、ストーリーの細部が分かりにくい、ということはあるかと思います。ストーリー全体を俯瞰できる視点からではなく、それぞれの登場人物の視点から、各シーンが描かれている印象です(主人公も事件の全体像を把握できていません)。でも、ストーリーを説明しすぎるのは「ダサい」ですし、こういう描き方をしたのかな?と思ってます。

というわけで、DVDで2回見れば、全体像がよりハッキリと見えてくると思います。

また、アメリカとの国境近くのメキシコ領内の状況について、予備知識があると理解がよりスムースになるでしょう。最初字幕を見ていて「ん、ファミレス?」と読み間違えてしまいましたが、町についてネットで調べてみて「そんなことになっているのか…」と、わかったことがたくさんありました。

映画の終盤では「臆病者は、現実から目を背けてしまうがゆえに残酷だ」というテーマが示されます。この映画の中での悲劇は確かにフィクションかもしれませんが、フアレスの悲劇は現実です。つまり、劇中の悲劇は現実と地続きなんですね。となると「軽い気持ちでクスリに手を出した」人は、この「現実の悲劇」の共犯者ということになります(cf「あのようなDVDを見たヤツも同罪だ」)。ましてや、主人公のような人物が自身を安全な場に置いたまま「ヤバい社会」とちょいと関わって「美味しいトコ取り」をするような行為は、自身の行為がどんな状況と「繋がって」いるかについて無自覚であるがゆえに「残酷」ですし、一方、「あちら側」で善悪に縛られずに生きている人々からすれば、「はぁ?お前ナメてんの?」という風に思われても仕方がないでしょう。

というわけで、考え始めるとたくさんのテーマが思い浮かぶ、見応えバッチリの傑作だと、私は思いました。

たけろく