劇場公開日 1943年10月28日

「坂妻が素晴らしい松五郎にみる日本人像の美しさと儚さ、詩情豊かな稲垣演出と宮川一夫の映像美」無法松の一生(1943) Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5坂妻が素晴らしい松五郎にみる日本人像の美しさと儚さ、詩情豊かな稲垣演出と宮川一夫の映像美

2023年9月22日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、TV地上波、VOD

愛すべき日本映画。子供表現の上手な稲垣浩監督がその真価を示す。スローモーションを多用した撮影が印象的で美しく、その詩的な表現が素晴らしい。久しぶりに邦画を観たと言う満足感に浸る。主演坂東妻三郎の名演。
(1977年 5月26日 地上波テレビ)

洋画の華やかさと面白さの虜になっていた10代の頃は、正直なところ地味で暗い邦画を馬鹿にしていた。今に思えば日本と日本文化について無知だった故の偏見と、西洋文化への憧れの反動だったが、映画評論家淀川長治氏を一方的に信奉していたことも大きい。氏の邦画に対する要求は厳しかった。また映画館のない辺鄙な地方の高校生では、運よくテレビで放映されるのを受動的に鑑賞するしかなかったし、洋画と比べて限られていた。それでも数は少ないが、洋画の感動に並ぶ名作に出会えた。浦山桐郎の「キューポラのある街」、市川崑の「ビルマの竪琴」、小林正樹の「切腹」、小津安二郎の「秋刀魚の味」、田坂具隆の「女中っ子」、木下惠介の「カルメン故郷に帰る」、黒澤明の「七人の侍」、吉村公三郎の「夜の河」、溝口健二の「赤線地帯」、そして邦画ならではの味わいでは、川島雄三の「幕末太陽伝」、新藤兼人の「鬼婆」、久松静児の「警察日記」、内田吐夢の「浪花の恋の物語」、衣笠貞之助の「お琴と佐助」、三隅研次の「剣鬼」、増村保造の「陸軍中野学校」などがある。それらの中で、この稲垣浩監督の「無法松の一生」には特別な感慨を持った。それは、主人公富島松五郎の人間像に最も日本人の美しさと儚さを感じたからだった。またその松五郎を演じた坂東妻三郎の素晴らしに感服し、魅了される。この主人公の無骨さと一途さが映像の瑞々しさと融合して映画の詩となり、日本映画独特の映像美に昇華されていた。

初見から46年振りに見直して、この稲垣監督の演出、伊丹万作の脚本、妻三郎の演技と吉岡よし子役の園井恵子の美しさ、そして撮影の宮川一夫の技巧を凝らした映像美に改めて感動する。太平洋戦争真っ只中の製作環境の厳しさと内務省の検閲という時代の不運に晒され、作品としては不完全な状態でしか観ることが出来ない。重要な場面含め10分以上のカットを余儀なくされたとあるが、更に戦後GHQの検閲で約8分のフィルムが消失してしまい、本編の99分が78分まで短くなっている。しかし、ラストの多重露光の回想場面のモンタージュの素晴らしさが、ストーリーの流れを失わず何とか繋げていることは、本当に救いである。撮影監督8年のキャリアでめぐり会えた巨匠宮川一夫氏の代表作の一本としても、日本映画の貴重な作品であることは間違いない。

Gustav
トミーさんのコメント
2023年10月18日

コメントありがとうございます。
本当にそうですね、まさか・・と思うような所からおかしな事になっていくんでしょうね、鋭く目を配りたいものです。

トミー
トミーさんのコメント
2023年10月17日

制約なく撮れた三船版、賞もトリマシタが別物としか思えない・・死に直面する以外ここまで悔しさが残る経験は、現在無いと思います。「松五郎さん・・ううう」

トミー
活動写真愛好家さんのコメント
2023年9月27日

Gustavさんがこのレビューで挙げておられる数々の日本の名作映画たち‼️思い出すだけで興奮します‼️トキメキます‼️近いうちに観直さなくては‼️
この「無法松の一生」もそうですが、日本映画にとって1番不幸な事は、戦争で数多くの名作映画のフィルムが失われていることですよね。稲垣浩監督にしても「彌太郎笠」とか「海を渡る祭札」、伊藤大輔監督の「新版大岡政談」とか山中貞雄監督の「抱寝の長脇差」、伊丹万作監督の「国士無双」とか観たくて観たくて夢に出てきます‼️伊藤大輔監督の「忠次旅日記」は30年位前に民家の倉庫で偶然発見されて、ブルーレイまで発売されているんですが、その作品もかなりカットされた版なんですよね〜黒澤明監督の「姿三四郎」のカットされたフィルムはロシアで見つかったらしいです。ひょっとしたら、地球のどこかにまだ残っているかもしれませんね。

活動写真愛好家