劇場公開日 2013年5月18日

  • 予告編を見る

「世代を越えて震撼する新感覚ホラー」クロユリ団地 けんさんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0世代を越えて震撼する新感覚ホラー

2013年5月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

怖い

まずここにジャパニーズホラーを世界に知らしめた中田秀夫監督が、過去の同様の手法だけに満足することなく(時間が止まったままでではなく)、果敢に今までにない新しいホラー像にチャレンジし、見事に成功したことに拍手を送りたい。

この感情に訴えかけてくる新しいホラーの呼び名は、また世界のどなたかがつけてくれるとして、お子さんや若者達の感じる「恐さ」だけでなく、自分の周りの死に直面したり、ある程度人生経験を積んできた者であれば別の「怖さ」を感じることになるだろう。

静かな序盤の「違和感」から、中盤のパラダイムシフトにつながり、徐々に恐怖と不安を感じながら震撼し、最後にすべてのつじつまが合い、現実世界から見た別の恐怖を感じさせながら物語は終焉する。

…いや、すべてではない。直前で監督が変更したという、主演の成宮寛貴さんのクライマックスシーンの展開にも、現時点では違和感が残る。このまま終焉することなく(時間が止まったままではなく)、初日舞台挨拶で監督が仄かに仄めかした続編が動き出すことを期待したい。

主演のもう一人、前田敦子さんについて。序盤から一転、最後には完全に狂乱し、あちらの世界へ行ってしまった人のような状態に陥ってしまう。ある謎もここで氷解する。演技に関して語れる立場にはないが、私が見かけたのはまぎれもなく完全に孤独と、彼女にとっての闇を抱えた一人の少女「二宮明日香」であり、観終わった今でも思い出すたびに震撼し、涙が出てくるとだけ言っておく。私自身は別に境遇が似ているわけでもなく、同じ状況に陥っているわけでもないにもかかわらずだ。このあたりの共感や感情移入の仕方は、もしかしたら人によって、境遇によって変わってくるのかもしれない。

物語が静かに進行する中、何度も震撼するシーンがあり、クライマックスへとつながるのだが、最終的には「哀しみ」、「つらさ」が残り、別の「怖さ」を感じる。「優しさ」とは何なのかも考えさせられる。

無機質な「団地」という、高度成長期から時間の止まった存在、向かい合わせのドアとドア、切れかけた蛍光灯、爪の引っかき跡、音響効果など、「怖い」要素はたくさんあるが、全く新しく、それでも古くからある(時間が止まったままの)人間の感情という恐怖をあらためて感じることができる新しい「ホラー」映画だった。音響効果もさることながら、是非とも大勢の人の中でこの恐怖を味わってほしい。

けんさん