劇場公開日 2013年2月15日

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「渾身の演技と渾身の物語」ゼロ・ダーク・サーティ ロロ・トマシさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0渾身の演技と渾身の物語

2013年2月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

知的

傑作。

まず物語に言及するよりも兎に角、先に触れておくべきが主演のジェシカ・チャステインでしょう。凄いです。渾身の演技ってのはこのことを云うんじゃないですかね。

正義と呼ぶには拷問やら殺人が横行する血濡れた稼業。悪と呼ぶにはその大義が意味する処を思えばグレーの世界。
そんな只中に放り込まれた新人CIA。彼女がビン・ラディン暗殺を画策する凄腕エージェントに成長を果たすまでの一大エピック。
見事に演じ切っておりますよ、ジェシカさん。
物語冒頭の拷問に閉口しつつ、やがてそれも『毒を喰らわば皿まで』的に受け入れてく、否応なしで身に付けるタフネス耐性。
何度も命を狙われながら、決して任務遂行の手を弛めぬ、ある意味で意地にも似た狂気的信念。
あまりに不甲斐ない上司に激昂し顔筋歪めてキレる心情吐露しまくりの鳥肌モノシークエンス。等々。

素晴らしいです彼女。あんだけの登場人物、アンサンブルなキャスト揃えてるにも関わらず、主演ジェシカ・チャステインの一人勝ち。独壇場。

―な、安定(?)した主役を据えての、肝心の物語の方なのですが。

これもこれも。ストーリーも秀逸。
終わりの見えない、気が遠くなる程に長い年月の追走劇。
掴んだ証拠はどれも霞の如く手指をすり抜けていく。不透明で空虚な証言の数々。
諦めムードも許されない精神疲弊の孤独な環境。

しかし。
それでも着々と、着々と首謀者ビン・ラディンに近付き行くアプローチ感。
結末は世界中の誰もが分かってるのに、この固唾を飲まされる緊迫感。
恐らく今年度で1番強いられたであろう、切迫した緊張感。
どれを取っても一級品。

このブロックを一段づつ積み重ねるが如くの丁寧な物語運びが、エンターテインメント性を廃しつつ、だけどこれこそ寧ろエンタメだったんじゃないか、という映画的カタルシスを用意されたラスト。
非常に面白かったです。

傑作。

ロロ・トマシ