劇場公開日 1958年12月28日

「裏切り、御免!」隠し砦の三悪人 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0裏切り、御免!

2021年10月2日
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鑑賞方法:映画館

黒澤明が娯楽に徹したら向かうところ敵なし。
午前十時の映画祭11にて。

大筋は、敵に占拠された自国領から、姫君と軍資金を敵の包囲網をかい潜って隣国まで送り届けようとする脱出劇。
秋月家の侍大将である真壁六郎太(三船敏郎)、報奨目当てで戦場にやって来た百姓の太平(千秋実)と又七(藤原釜足)、秋月家の姫である雪姫(上原美佐)の4人旅になるのだが、太平と又七がごまかすために言ったことを六郎太が採用し、わざわざ敵の領地を通り抜ける決死の作戦を決行することになる。
その上、太平と又七は六郎太と雪姫の正体を知らないから、彼らに使命感などなく、金塊を持ってトンズラしようとしたりするのだから面白い。
彼ら一行は次々と危機に見舞われるのだが、間一髪で切り抜けるアイディアを連続させる構成がヒッチコックのようでもある。

『スター・ウォーズ(episode Ⅳ)』に引用されたことで有名になった太平と又七の掛け合いのシーンで映画はスタートする。
埋蔵金掘りの強制労働夫たちが反乱を起こし、暴徒となって石段を駆け降りるシーンの迫力に圧倒されるが、まだまだ物語は導入部だ。
太平と又七の前に仁王立ちの六郎太が現れると、物語の本筋が動き始める。
この、岩山の上に立つ三船敏郎を見せる構図の完璧さ!

やはり本作でも三船敏郎の身体能力が発揮されている。
敵の騎馬を追う三船は、両手で刀を高く構えて両足だけで駆ける馬を操っている。『七人の侍』では裸馬に乗って見せた。
このシーン、追う三船と逃げる敵騎馬をパンで撮影して背景を流すことですごいスピード感を出している。
田所兵衛(藤田進)との一騎打ちでは、長い槍を見事に振り回す。対する藤田進も姿三四郎を演じた人だけに三船としっかり対峙しているが、運動量は圧倒的に三船だ。
敵の鉄砲隊に追い詰められた場面で、村娘を肩にかついで山の斜面を走ったりもしている。

上原美佐は、オーディションで決まらなかった雪姫の役を、一般人から東宝の社員がスカウトしたというのは有名。
撮影にあたって乗馬と剣道を特訓されたらしいが、短いシーンだが山中で馬を乗りこなす姿は見事だった。
本作で人気を得たが、2〜3年で女優を引退している。
途中の宿場で人買いに連れられた秋月領の村娘を助け、一行は5人となる。この娘を演じた樋口年子という女優は雪姫のオーディションを受けた一人だったらしい。
この娘が姫の正体に気付き、身を挺して雪姫を守ろうとする姿は感動的だ。

黒澤明は「やり過ぎくらいが丁度いい」がモットーで、時々暴走したような映像を挟む。
本作では火祭りの場面が正にそれだ。それはまるでケチャックダンスのようで、山林の村というより南海の孤島の儀式の様で、モスラでも出てきそうだ。

いよいよ捕らえられた雪姫、六郎太、村娘の三人。万事休すの場面で、顔検分に現れた田所兵衛を前に雪姫が堂々と兵衛とその上司を批判する。
この台詞は、現代にも通じる人の上に立つ者の在り方を問うている。
雪姫の言葉で踵を返した兵衛と共に最後の大脱出を図る。「裏切り、御免!」

終幕の後日譚もハートウォーミングで、終始楽しめる傑作である。
果たして、六郎太、雪姫と共に早川領に逃げ込んだと思われる田所兵衛は、その後どうなったのだろうか。

kazz
ぷにゃぷにゃさんのコメント
2021年11月11日

コメントありがとうございます。
謎なんですね、三悪人。
百姓コンビを騙した、という意味で、六郎太、雪姫、後追いで仲間入りした兵衛の3人ってのも、ありですかね。

ぷにゃぷにゃ
大吉さんのコメント
2021年11月10日

コメントに感謝です。
レンタルや配信で好きなものが簡単に観ることができる今と違って
お金と時間と労力をかけて観に行った映画は今でも記憶にしっかりと残っています。映画館にも愛着がありましたよね。
ある意味幸せな時代だったなと思います。
黒澤作品の三船さんは最高だと思いますが、岡本喜八作品の三船さんも面白いですよ。

大吉
アキ爺さんのコメント
2021年10月4日

田所さんの「裏切り御免」は名セリフですよね✨

三船敏郎メチャクチャカッコよかったです‼️刀をかまえて馬に乗るってバランス感覚が物凄い🐴💨💨日本の映画史に名前を刻んでる名優だけはありますね。流石でした。

アキ爺