劇場公開日 2013年2月23日

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「気が早いが今年の邦画ベスト3に入りそうな予感のする映画」草原の椅子 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5気が早いが今年の邦画ベスト3に入りそうな予感のする映画

2013年1月26日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

泣ける

笑える

幸せ

この映画を観ていると、急に孔子のあの名言を思い出した。「15にして学に志し、30にして立ち、40にして惑わず、50にして天命を知る」と言うあれだ。
2013年に暮す現代の私達の人生は今や、80年。
複雑な世界情勢の影響を受けながら日々挌闘しながら働く多くのビジネスマン。
そして、この映画の主人公・遠間の年齢となれば、新入社員の頃とは全く違う悩みを抱えて日々努力・努力の連続で、決して楽は出来ずに、体力に陰りも見えても、まだまだひたすら働くお父さん世代の会社員だ。その彼らの悲哀が実にコミカルに描かれて観ていて微笑ましい。
管理職や経営者になれば自分の身の心配ばかりでは済まない苦労を背負う男たちは、50過ぎても、日々迷い、天命を知りたくも、中々自己の天命を知り、天命に沿った生き方の選択が難しい事を知るのも、この佐藤浩市演じる遠間の世代であると思う。
きっと原作者の宮本輝はそんなビジネス戦士の日々の姿を、今風に言うなら、仕事のストレスからウツを患い退社経験を持つ彼は描き出したかったのだろうか?
私はこの原作を未読である為に、この映画と原作との描き方の相違については何も言えないが、思うに、昨年高倉健が主演した「あなたへ」の様なオーソドックスな撮り方ではあるけれども、家族や、友人との人情を描いたタイプの邦画好きの人には安心2重マルの絶対お薦めの作品だと思う。

ストーリーとしては、バツイチ男の遠間の家庭に新たな難題が起きる。一人娘が、知り合いの子供を預かるハメになり、預かった4歳の子供に大の大人が翻弄されながらも、人生の転機を受け入れ、新たな人生を踏み出して行くと言うストーリーを、佐藤浩市と西村雅彦が時にコミカルに、そして確かな芝居で中年男の悲哀を見事に演じている。
この映画の成島出監督の作品では、私は「孤高のメス」が好きな作品であるけれど、彼も近年では数々の名画を監督しているが、この映画を私が更に良かったと気に入った理由の1つには撮影監督を長沼六男が担当している事がある。
彼は山田洋次監督と寅さんシリーズ後半から長くコンビを組んで来た人なので、彼のカメラは最もこう言う作風の作品には、ピッタリのカメラワークで観客を惹き付けるのが巧いと思う。フィックスで、ドンと構えた画作りが観ていて安定感があって素晴らしいし、フンザの壮大な自然の砂漠や、山々の画も綺麗で良かった。
そして脇を固める俳優も井川比佐志が西村雅彦の年老いた父親を好演していた。そう言えば、西村は「東京家族」でも長男を演じていたが、よりこちらの作品の方がハマリ役だった様に思う。そして私の好きな小池栄子が4歳の圭輔を虐待し、その後捨ててしまう壊れた鬼の母親を怪演しているが、そのキレタ演技も観ものの1つであった。
人は幾つになっても未知の人生を日々歩んで生きているのだから、時に迷いながらも、前に向かって生きて行かなければならない。自分探しの旅は生涯最後の日迄続いているのかも知れない。天命を知らずとも、生きている素晴らしさを思い起こす秀作であった。

ryuu topiann