劇場公開日 2006年11月4日

「やっぱ日本人にはおにぎりが似合うなっす」待合室 Notebook of life kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0やっぱ日本人にはおにぎりが似合うなっす

2020年10月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 感動の押し売りなど一切ないのに、心に響いてしまう。「生きていればいつかはいいことがある」と命の大切さを淡々と書き綴る主人公の夏井和代(富司純子・寺島しのぶ親子競演)。人生においてひとつもいい思い出などなさそうな彼女の口から発せられるからこそ、言葉の重みがひしひしと伝わってくるのです。

 岩手県遠野市から二戸郡一戸町へと嫁いできた和代。教師をしていた夫(ダンカン)が教え子から人生相談をよく受けていたため、その返事を手伝ったことがきっかけとなり、駅にあった「命のノート」に返事を書くようになった。「文才がなくても心で書けばいい」と夫に教えられ、こつこつとノートに書いてゆく・・・

 観光名所など何もない村の小繋駅。全国各地から心に傷を負った者が訪れてはノートに人生の苦悩を書き連ねる。彼らのほとんどは再び訪れてノートの返事を確かめることをしない。しかし、和代とは心が通じ合っているかのように彼女のことを「東北のおかあさん」と呼んだりしているのです。命の重みを語るには心に傷を持った者のほうがやはり説得力があるのだろうか、いや、それ以上に彼女の明るさと心からの接し方に温かみを感じてしまうのだろう。

 日本初のフィルムストリームカメラ「VIPER」を使用といった映像よりも、人の死を全く映像化していないという、ヤクザ映画出身監督のこだわりが感じられた。普通なら死に際とか葬式の映像を取り入れて「さあ、ここで泣いてください」と言わんばかりのクライマックスを持ってくると思うのです。そのあざとさが全くない・・・淡々とノートに書き込むだけ。

 終盤、和代の姿が「鶴の恩返し」のようになっていましたが、彼女が亡くなった人やノートによって救われた人たちへの感謝の気持ちの表現していたのか・・・彼女自身もそれが生きがいとなっていることが重要だったのかもしれません。そして綾戸智絵によるエンディング曲が心にしみる。

【2007年1月映画館にて】

kossy