狙われた男(1956)

劇場公開日:

解説

銀座を背景にしたセミ・ドキュメンタリー・スリラー篇。「嫁ぐ日」の新藤兼人の脚本を、新人中平康が第一回作品として監督した。撮影は「沙羅の花の峠」の中尾駿一郎。主な出演者は「快傑耶茶坊 (前後篇)」の南寿美子、「姉さんのお嫁入り」の牧真介、「色ざんげ(1956)」の天路圭子、「ドラムと恋と夢」の市村俊幸、「真昼の暗黒」の内藤武敏、北林谷栄など。

1956年製作/68分/日本
原題:The Shadow of Fear
配給:日活
劇場公開日:1956年9月11日

ストーリー

銀座裏のアパートで美鈴美容院のマダム竜江が何者かに絞殺された。外出から戻った娘民子の悲鳴に、洋裁店のマダム、質屋の若旦那らが慌てて飛び出してきた。現場に到着した安本警部の綿密な調査にも手掛りは得られなかったが、犯人はこの銀座裏の小路に住む人間の一人らしい。安本警部は、先ずバー・シャトルのマダム牧子の弟で前科者の吉夫に眼をつけた。夜の銀座に現われた安本は、バー・エデンからマユミ洋裁店、神社新聞社と廻って探りを入れたが、疑えば疑える人間ばかりだった。安本は、被害者の殺害される四十分前に、吉夫が被害者と会っていることを吉夫自身に会って確めた。吉夫に殺人犯の前科があると知った小路の住人達は、いつの間にか吉夫を犯人と極め込むようになった。警視庁に出頭を命ぜられた吉夫は、前科のため誰からも相手にされない不満のやり場もなかった。こうした吉夫を慰めるエデンの女給藤枝は、事件の晩左眼のない男が大男にかつがれてタクシーに連れこまれるのを目撃したと言った。折も折、銀座の河岸に左眼のない中年男の溺死体がうちあげられた。吉夫は母民子から、前夜アパートの向い、大洋貿易社長山路の部屋で硝子の割れる音と共に室が暗くなったのを見たと聞いた。その夜、吉夫は何者かに襲われ負傷した。牧子に気のある山路は同情して、三人で大阪へ行こうと吉夫に提案したが、その折じゃれつく野良犬を蹴る山路の思い掛けぬ残忍さに、ある確信を持った吉夫は、その夜、単身山路の室を訪れ、山路が義眼の男を殺しその一部始終を見られた美容院のマダムをも絞殺した委細を暴露した。吉夫は山路の拳銃に傷ついたがアパートの屋上から小路へ山路を追いつめ、駈けつけた安本警部に引渡した。やがて平和を取り戻した小路には仲良く肩を並べた吉夫と藤枝の姿があった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

5.0中平康監督の傑作!

2022年7月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

シネマヴェーラ渋谷にて鑑賞。

やっと見れた中平康監督のこの映画、タイトルからしてアメリカのノワール映画っぽいが、「日活ノワール」とでも言うような作品で傑作!

オープニングで「眼のアップ」がスクリーン全体に映されて、ビルの屋上から銀座の街の俯瞰シーンが移動して路地裏を映す。いやぁ、見事なシーン。
そして路地裏で女性の悲鳴、美容院のマダムが殺される事件、「また、まっ昼間の銀座殺人?」という会話&新聞……というテンポ良く進む物語が楽しい。

そして、警部(内藤武敏)が殺人現場の近くの聞き込み捜査をはじめると、近所の住民たち(北林谷栄、下條正巳、松下達夫など)の場面切替えも速く、前科者の青年(牧真介)が「どうせ、俺が殺人を犯したことがある前科者だから疑っているんだろ」と警部に言うのを近所の人達がドアの外で聞いていて、アッという間に皆が知ることとなる情報管理の緩さが楽しい…(笑)

時々、中平康監督らしさを見せるショットがあって、「なんか斜めの構図だな…」と思うと、それは「腕枕している男(前科者)の視線をとらえたショット」であった。
冒頭の銀座の俯瞰シーンなどと同様、素晴らしい!

更に、男の死体が水辺で発見されるが、このあたりから2つの殺人事件を追及するドラマとなっていき、クライマックスのビル屋上シーンでのアクション場面もナイス!

物凄い展開に眼を見張る映画だが、これだけ盛りだくさんの内容を70分の物語にまとめた新藤兼人の脚本が素晴らしい。

サスペンス映画好きは必見の映画だが、未ソフト化が勿体ない傑作である。

<映倫No.2214>

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たいちぃ