劇場公開日 1965年1月3日

「橋本忍の脚本で、岡本喜八監督が東宝のスーパースターから名脇役まで欲しいままに使って撮るのだから面白く無いわけがない」侍(1965) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0橋本忍の脚本で、岡本喜八監督が東宝のスーパースターから名脇役まで欲しいままに使って撮るのだから面白く無いわけがない

2021年6月7日
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鑑賞方法:VOD

素晴らしい!!!堪能した!
本格のそれも骨太の時代劇を観た満足感がある
岡本喜八監督初の時代劇作品

1963年「江分利満氏の優雅な生活」、1964年「ああ爆弾」と来て1965年が本作
代表作の「日本のいちばん長い日」は1967年の作品になる
本作にはそのドキュメンタリータッチがすでに濃密にあるのだ

冒頭の雪の桜田門のナレーションの「江戸城には総じて36の門がある」からしてドキュメンタリーで行くぞとの宣言でゾクゾクする
それを襲撃側の書記官の記録として大変にスマートに処理してある

前半は内通者は誰か?から主人公の新納鶴千代についての説明が延々と展開される
しかしこれが面白い
後半はいよいよその本当の正体があきらかになったときクライマックスの桜田門外の変に雪崩れ込む
その乱闘の迫力たるや!
息をするのも忘れる程だ

主人公の三船敏郎、ヒロインに新珠三千代
小林桂樹、東野英治郎、八千草薫、平田昭彦、
中丸忠雄、天本英世、藤田進、志村喬とまあ、呆れるほどの豪華な東宝オールスター総出演
翌年ウルトラマンのイデ隊員でブレイクする二瓶正也の顔もみえる

三船敏郎はさすがの超重量級で、画面に映っているだけで映画になる

伊藤雄之助が演じる星野監物の血の冷たい怪演も心に残った
主人公の血の熱さとの対比が良く際立っている

肝腎の桜田門のセットも巨大で如何に東宝が金を掛けているか、期待を掛けた超大作であったか分かろうものだ

本作は1965年1月3日の公開
黒澤明監督の「赤ひげ」は同年4月3日の公開
しかし本来は1964年の年末封切りの予定であった
撮影は大幅に遅延し、「三大怪獣 地球最大の決戦」がその穴埋めに製作されたことはあまりにも有名
さらに延期につぐ延期で結局4月公開になったのだ
実に撮影開始から丸2年のことだという

つまり三船敏郎は「赤ひげ」の撮影と、本作の撮影が一時期被ったということだ
「赤ひげ」での彼の出演シーンが先にクランクアップしていたのだろうか

黒澤明監督はその「赤ひげ」が大ヒットし、世界的映画賞を幾つも獲得するのだが、東宝に取っては予算も公開スケジュールも大幅に超過するどころか、どうなるかも皆目分からないという扱い辛い監督との烙印を押されてしまう
よって三船敏郎主演映画は「赤ひげ」が最後になってしまった

それに対して岡本喜八監督は綿密な計画性を持って撮影を行う
しかも黒澤明監督にも見劣りのしない映画を撮れる
本作は正にそれだ

原作は過去に4作も映画が撮られたギリシャ神話のオイディプスに題材をとったお話
それを橋本忍が脚本にして、岡本喜八監督が東宝のスーパースターから名脇を欲しいままに使って撮るのだから面白く無いわけがない

桜田門外の変は1860年のこと
品川宿の相模屋が劇中に登場する
映画ファンなら川島雄三監督の1957年の作品「幕末太陽傳」の舞台となった大きく立派な出会い茶屋とすぐに気がつくはず
英国大使館焼き討ち事件は1963年のことだから、本作はその3年前のお話になる

岡本喜八監督の次の時代劇作品は1966年の「大菩薩峠」になるが、それも舞台の時代は1860年

明治維新へのこだわり?
いや60年安保の丁度100年前が1860年だからだろう
その出発点だという意味だったと思う

井伊大老が言う「侍が無くなってしまう」
親友の栗原栄之助の夢見る日本が目指すべき社会
水戸浪士のいう国際情勢を鑑みた上での大儀
しかしそれらこれらも突き詰めてみれば、結局のところ徳川のお家騒動に過ぎないと主人公に身も蓋も無いことを喝破させているのだ

自分には、なにやら60年安保闘争の構図を俯瞰して揶揄しているようにそれらが聞こえるのだ

もっともっと高く評価されるべき作品だと思うがしかしこの暗喩が足を引っ張るのか、「赤ひげ」の影に隠れてしまうのか、岡本喜八の傑作として取り上げられることが少ない
正しく評価されるべきだ

あき240
マサシさんのコメント
2024年1月13日

まぁ、総論は共感出来る野老もあります。

マサシ