劇場公開日 2022年10月21日

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「理由なき脱獄を繰り返すニヒリズムのアウトローを演じたポール・ニューマンの唯一無二の魅力」暴力脱獄 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0理由なき脱獄を繰り返すニヒリズムのアウトローを演じたポール・ニューマンの唯一無二の魅力

2023年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル、TV地上波

結論から言えば主演のポール・ニューマンの魅力だけで語られるアメリカ・ニューシネマ前夜の脱獄映画。刑務所内の権力と暴力の支配下、罪を犯した囚人たちにとって解放と自由の象徴と化し憧憬の対象となるルーカス・ジャクソンという男の反体制の生き辛さが、ユーモアと内省のシリアスの程よいバランスで描かれている。他の多くの脱獄映画のサスペンスやアクションシーンの迫力と爽快感とは対極にあるユニークな作品で、これを成立させたポール・ニューマンの俳優としての貴重な価値は、有名な代表作と並び記憶に留めたい。

原作は1965年に発表されたドン・ピアースの『Cool Hand Luke』で、実際にピアースはフロリダの刑務所に服役した体験から発想を得たようだ。炎天下で道端に生えた雑草を刈らされる過酷な労働、刑務所長の独断で強制される懲罰房、体力の限界まで追い込まれる無意味な穴掘りのパワハラなどが、日常から隔絶された刑務所の実態を見せてくれる。これを視れば、間違っても犯罪を犯すことの愚かさや怖さを思い知るのが普通の人間であろう。それでもルーカスは何度も脱獄を試み、連れ戻されては両足に重い鎖をはめられる。彼はベトナム戦争に従軍し軍曹まで昇進する功績を挙げながら二等兵で除隊している。ここに彼の得体の知れない何かがある。実社会でも軍隊の組織でも満足に生きられず、動機の曖昧な理由なき犯罪を犯して、流れのまま服役している男ルーカス・ジャクソン。このアウトローをポール・ニューマンが、曖昧さをそのままに微笑み、時に涙を流し、偶然のノリの賭けから大量50個のゆで卵を60分で飲み込み、そして最後は神に己の生き辛さを問いかける。

盟友ドラグラインを演じた名脇役のジョージ・ケネディがアカデミー賞の助演男優賞を受賞したのはいいが、その好演を引き立てた主演のポール・ニューマンが主演賞に至らなかったのは、個人的に納得がいかない。そもそもポール・ニューマンは、同時代のマーロン・ブランドやジェームズ・ディーンと比べてデビュー時代作品に恵まれず、1956年の「傷だらけの栄光」もジェームズ・ディーンの突然の死によってキャスティングされ、本格的な出世作「ハスラー」では作品の評価に止まり、ニューマンの演技に栄誉はもたらされ無かった。初期の「長く熱い夜」「熱いトタン屋根の猫」ではアクターズ・スタジオで磨いた演劇演技を見せて、「ハスラー」では映画俳優の個性を確立したニューマンのアカデミー賞ノミネートは、漸く「ハスラー2」で受賞するまで何と7回を数える。アカデミー賞が全てで無いのは理解しても、この弄び振りは稀な事例と言えると思う。ニューマンの演技の魅力を語る上で私的に特筆したい作品は、「ハスラー」「スティング」「評決」と、この「暴力脱獄」である。

ジョージ・ケネディは「大空港」から頭角を現し、彼が登場すると物事が好転する安心感があり、それはジョン・フォード映画などで活躍したワード・ボンドを彷彿とさせる。短い登場シーンで車の荷台に寝たままの病弱な母親役の「エデンの東」のジョー・ヴァン・フリートも存在感がある。若者の抵抗を理由なきと表現したジェームズ・ディーンの「理由なき反抗」から連想すると、この作品は“理由なき脱獄(逃走)”と言える。偶然にも「理由なき反抗」に出演したデニス・ホッパーが台詞の殆ど無い脇役で姿を見せていて、この作品の2年後の「イージー・ライダー」で監督デビューするのは感慨深い。監督は他に「マシンガン・パニック」しか観ていないステュアート・ローゼンバーグ。特別な演出の冴えは無いが、手堅く纏め上げている。それを支えた撮影のコンラッド・レ・ホールの映像が、ロケのカリフォルニアの自然を美しく捉えている。

映画を初期のサイレントから長く細く観て来て、数多くの男優の演技に感動と感銘と共感を得てきたが、実を言うとこの映画のポール・ニューマンが一番のお気に入りである。古くはチャップリン、シュトロハイムから現代のブラッド・ピット、ジョニー・デップまでと果てしないが、演技力と個性の魅力が一体となって役柄を演じる映画男優の好みで言えば、「群衆」のゲイリー・クーパーと「理由なき反抗」のジェームズ・ディーン、そしてこのポール・ニューマンの三名に愛着が募る。作品的には絶賛に値する映画ではないが、ポール・ニューマンの魅力の点では、映画の歴史に痕跡を残すクールなルーク。これはニューマンでしか表現できなかったニヒリズムのヒーロー像である。

Gustav
こころさんのコメント
2023年11月30日

Gustavさん
コメントへの返信を頂き有難うございます。
「 オレゴン大森林 / わが緑の大地 」、監督もされているのですね。いつか観てみたいですね。NHK-BSあたりで放送して頂けると有難いのですが ☺️
教えて頂き有難うございます。

こころ
kossyさんのコメント
2023年11月30日

ジョージ・ケネディを初めてスクリーンで見たのは『人間の証明』でした。あの時は刑事でありながら戦時中は日本人を見下していて、まさしく鬼畜米英のイメージでインパクト絶大でした。

kossy
こころさんのコメント
2023年11月30日

Gustavさん
『 その好演を引き立てた主演のポール・ニューマン 』、そうですよね。
本作、初めての鑑賞でしたが、ポール・ニューマンのスター性と、その演技力に改めて気付かされた作品でした。
「 ハスラー 」も、尖った魅力が印象的な作品でした。

こころ