劇場公開日 2023年8月18日

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「観てよかった!」エドワード・ヤンの恋愛時代 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0観てよかった!

2023年9月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

繁栄への道を辿る90年代前半の台北を舞台として、年代の近い4組のカップルを中心にした、わずか2日半の群像劇。はじめ、人物が多すぎて混乱しそうだったが、まだ登場していない人の名前が飛び交っていると分かって少し我慢して見ていたら、やがてストーリーは飲み込めた。
一見すると、題名「恋愛時代」から連想される、当時の日本でたくさん流れていたトレンディードラマ。実際には、原題「獨立時代」や英語題名(A Confucian Confusion)「儒教者の混乱」に近い内容だと知れた。中国―台湾の基層にある孔子由来の儒教社会(年寄りを敬い、序列を重んじる)に、戦後個人の独立を重視する西洋社会の影響が急速に流れ込んだための混乱。親に決められたり、そういうものだと思ったりして付き合い始めたものの、実際に付き合ってみたら、全く予想と違っていたりする。しかし、二つの考え方は、お互いに響き合っていて、それが日本との違い。それ故、普遍性を持ち、4Kレストア版となって公開されることの幸運。
そう言えば、台湾の街を歩いていると、日本の昭和を思わせるような古い街並みと、全く新しい新興の町が混在していて、しかもそれぞれに繁栄しているらしいことが不思議だったことを思い出す。
台湾あるいは中国の都市部は、日本以上に都市文化が発達していて、それが映画の内容に反映されている。食事は基本的に外食。しかもそのほぼ全てがビジネスに結びつく。家事や育児はメイドさんの仕事らしく、映画の中で出てくることは、原則ない。全員が男女を問わず、先端の仕事(経営、メディア、出版、創作、演出などの文化活動)に手を染めていて、しかも時として複数の仕事をこなす。すでに国際的(大陸との交流が出てくる)ではあるが、工業などの(日本の得意な)産業は出てこない。移動には(公共交通機関ではなく)自分の車やタクシーが使われる。富裕層と言ってしまえば、それまでだが、親の資産も豊かに違いない。
複数の早い流れを129分にまとめて見せたエドワード・ヤンの手腕は見事。少なくとも、二つの工夫があった。一つは、特に儒教の知識が、縦書きのト書になって出てきて、場の転換に使われる。主な部分は車の中での(多分に演劇的な)会話が占める。そこで情報の交換が行われるが、エレベーターが、しばしば巧妙に使われる。特に主人公の広告会社の経営者、モーリーの親友で、会社でのアシスタント(CMタレントでもある)チチが、恋人の元公務員、ミンと和解する場面が素晴らしい。
いわば日本を抜いてしまった(家電産業の救済や、半導体など)台湾の繁栄の秘密がここにあったような気がしてならない。そう言えば、日本の影響はタクシーのほとんどが(実用的な)日本車であったこと、寝室によく障子が使われていたことと、和食が会食の場として話題に上ったくらいか。
この映画が国際的に認知されている理由も、よく理解できた。

詠み人知らず