劇場公開日 2012年11月3日

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「また、貴方と逢えた」黄金を抱いて翔べ ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5また、貴方と逢えた

2012年11月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

幸せ

「ゲロッパ!」など、良質の娯楽映画を多数生み出してきた井筒和幸監督が、青春映画の佳作「69-sixty nine」の妻夫木聡を主演に迎えて描く、犯罪活劇映画。

高校時代、ふとしたきっかけで高村薫の原作に出会った。

何となくもやもや、いらいら、怒りを持て余していた学生の私は、圧力や権力に叩き潰されながらももがき、苦しみ、銀行強盗という究極の賭けへと疾走する男臭いドラマに、心が躍った。どこにも行けない無力な自分が、空へと飛び立つ感覚・・その爽快な活劇に、どれだけ腐りかけた気持ちが救われたか。私にとって、高村の原作は青春時代のバイブルだった。

その原作が、満を持しての映画化である。娯楽として全国公開に乗っけるには、あまりに泥臭く、キナ臭い犯罪劇として成立するストーリー。いささか不安と緊張を抱えながら鑑賞に挑む原作ファンも多いだろう。

その点では、「ガキ帝国」「パッチギ!」など、不器用に硬直した現実に対してあがき、拳をふりかざす!そんな格好良い男達を描いてきた作り手を演出に抜擢したのは、最適な判断だったろう。

「ファイヤーウォールを解除、パスワードをプログラムで解析!」「ウイルスで回路を遮断するのさ。」なんて、どことなく人の熱さ、弱さ、葛藤が浮かび上がらないデジタルな犯罪劇が世の映画を席巻する中、鋼鉄の金庫をバルブで無理やりこじ開け、汗かき、ベソかき脱走を図る極めて人間臭い強盗劇が爆発する本作。

知的な印象の強い役者陣を揃えつつ、適切なバランスをもって血まみれ、◎◎まみれの汚れたヒーローとして脚色、「衝動」の言葉がぴったりはまる小市民の暴走が生き生きと刻み込まれている。

人の姿が透けて、欠けて、どうにも薄味のデジタル時代に、敢えて突きつける肉体礼賛、奮闘のアクション作品には、やんちゃな男の美しさを時代に沿って魅せてくれる井筒演出がやはり、しっくりくる。ぴたりとはまり込む。

青春時代をするりと抜けて、少し世の中に染まってしまった今、映画という形で再会した「あの、世界」。果たして、私と同じように高村原作で青春を失踪した方には、どう映るのだろうか。そんな方と、あの頃は行けなかった居酒屋で、あの頃は飲めなかったビールを飲みながら話し込みたいものだ。

今でも、格好良い男達の熱い、熱い戦いは私の胸を熱くする。

ダックス奮闘{ふんとう}