劇場公開日 2012年10月20日

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「原発と認知症」希望の国 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0原発と認知症

2019年7月8日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 架空の町、長島県にある原発の町で起こった悲劇。福島の原発事故は過去のものになっているという設定だ。マグニチュード8強の地震が起こり、長島原発三号機が爆発・・・パニック映画の方向には行かず、じっくりと人間模様を描きながら、反原発を訴えた作品。尚、『希望の国』というタイトルは逆説的であり、内容は“希望のない国”だけど愛があるといったもの。

 酪農を営む小野一家。父・泰彦は夏八木、認知症の母・智恵子が大谷。そして息子の陽一(村上)と妻のいずみ(神楽坂恵)だ。隣人の鈴木家の家族(でんでん、筒井真理子、清水優)と息子の恋人ヨーコ(梶原ひかり)も描かれるが、原発半径10キロメートルという強制退去の線引きが丁度両家の間を走り、小野一家は現地に留まり、鈴木家が避難所生活を余儀なくされる。

 市、県、国は何も正直に教えてくれない。福島の教訓をまったく無視している。人々は何も知らされないまま、懸命に生きて行かねばならないのだ。そんな折、小野いずみが妊娠。若夫婦はすでに引っ越してはいるものの、放射能の恐怖から防護服に身を包み、病院や近所の笑い者になりながらも逞しく生活する。夫の陽一もそんな妻が愛おしくてしょうがない・・・

 希望を持って生きる?そんな様子はちっとも描かれない映画。“がんばろう日本”などとはかけ離れているのだ。「おうちに帰ろう」と常々訴えてくる小野智恵子。盆踊りが始まる予感がして町を徘徊する。必死に探し回る夫の姿も認知症ドラマとして完璧だ。やがて町でただ一家族残っていた小野家にも牛殺処分命令、強制退去命令が下されてる。ライフル銃で牛を自らの手で殺す泰彦。そして、その銃口は妻の智恵子に向けられるのだ。しかし、智恵子は無邪気に土いじり。「一緒に死のう」「いいよ」と、愛おしい妻に激しく接吻するシーンには涙を止めることができない・・・うう。

 若夫婦はさらに放射能の影響のない地方へと引っ越そうとするのだが、海岸で他の家族とくつろいでいるとき、いきなりガイガーカウンターがけたたましく鳴った。なんという虚さあふれる結末。原発がある限り、日本には平穏は来ない!一歩、一歩と進んでいても、結局は何も前進しないんだな・・・

kossy