劇場公開日 2012年9月15日

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「都会の片隅で擦れ違う老人と若者の葛藤」ライク・サムワン・イン・ラブ 全竜(3代目)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5都会の片隅で擦れ違う老人と若者の葛藤

2016年10月14日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

年老いた元大学教授が、話し相手を求め、デートクラブを通じて女子大学生を家に招き、孤独を忘れようとする物語。

監督は『桜桃の味』でカンヌ映画祭パルムドールを受賞した巨匠アッパス・キアロスタミ。

日本の都会なのに妙に異国の香り漂う夜のざわつきは、ソフィア・コッポラの『ロスト・インストレーション』を思い出した。

しかし、日本文化を茶化すようなおフザケは一切無く、街の片隅で触れ合う老人と若者の距離を静寂に描き出している。

家族と疎遠な老人に対し、コールガールも上京した祖母を置き去りにした罪悪感を抱いており、寂しさを淡々と語るやり取りが微笑ましくもあり、痛々しい。

会話と周囲の雑踏、主人公と他人の表情、安心と不安、甘えと脅え、そして、街の景色etc.互いの間の取り方が実に絶妙。

外国人監督なのに、日本映画として全く違和感が無かったのは、類い希なるバランス感覚の良さに表れていると云えよう


また、彼女の恋人で老人を祖父と勘違いし、知り合う男を演じていたのが、邦画の第一人者・加瀬亮。

『アウトレイジ』シリーズで神経質なヤクザを怪演していたが、今作でも根はイイ奴やのにキレると手が着けられない凶暴な若者を切れ味鋭く疾走。

全体的に大人しいムードに波乱を投じ、最後まで緊張感を維持させる貴重な存在を発揮している。

老人の嘘が遂にバレ、3人のキャッチボールの顛末を見届けたかっただけに、途中で断ち切れてしまったのが残念無念。

嫌いではなく、むしろ好きな部類だが、一概にオススメはできない。

今年観た中でも珍しい後味の映画である。

では最後に短歌を一首

『夜出逢ふ 後ろめたさに 交わす嘘 桜浮かべど 沁みる簪(かんざし)』
by全竜

全竜(3代目)