劇場公開日 2013年2月1日

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「アウトロー:勝手な強化プラン」アウトロー utatenoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5アウトロー:勝手な強化プラン

2013年6月22日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

興奮

どんなかたちであれ、それを生業としているプロの仕事に対して発言するのは、かんたんなことではないと思っている。

発言者のスタンスの見えない空虚な「評論」でも、あら探しに徹する「批判」でもなく、作品とそれをつくった製作者への敬意を持った、愛情のある「批評」であろうとすれば、なおさらかんたんではない。

前置きが長くなって、すみません。

「アウトロー」を予備知識なく、観ました。

※作品の内容を説明している部分、いわゆるネタバレには配慮しているつもりですが、観た後で読んでいただくほうがいい内容だと思います。

映像素材と物語(原作から借りてきたストーリー)は魅力的なものを揃えながら、それ以上にたいせつな要素である「人間」が描けていないのが惜しいとひとえに感じた。

この作品を“ものすごいもの”にするためには、主人公をトム・クルーズ演じるジャック・リーチャーではなく、ヘレン・ロディンにするべきだった、と思う。

女性弁護士ヘレン・ロディンの(さまざまな意味での)不安定さに観客を感情移入させないと、物語を進めて引っ張っていくためのエンジンが不足する。ジャック・リーチャーのキャラクター設計も、この構造によって、かなり活きてくる。

謎解きであるとか、リーチャーの魅力アピールを2番手におくことで、かえって活かしあう関係になりえた。

監督は引いた三人称視点で映画を構築しているが、ヘレン視点に軸足を置くことで観客に作品の観方を提示できることに気づいて欲しかった。

※何もヘレンの語り(モノローグ)を入れるとか、そういう安易な手法を推奨しているのではない。

※少々奇策に思われるかもしれないが、シリーズ化を狙うなら、あえて初作である本作をそのように設計するのが面白いアプローチになる。観客もヘレンとともに、戸惑いながら、リーチャーに引き込まれていくのだ。

となると、本作における最初の(主要な)登場人物はヘレンであるべきだ。
冒頭の静かな無差別殺人のシーンに続いて、まずヘレンを登場させてパーソナリティーを観客に対してしっかりと伝えておく必要がある。
それだけで作品は大きく強化できたはずだ。

また、ヘレンを演じたロザムンド・パイク(007ダイ・アナザー・デイのヒロイン、悪役側)は、少々変化に乏しい演技と、その結果として弱い存在感に終わってしまっていて、これも惜しい。

ヘレンの弱さと強さの両方を引き出していくのも、本作に加えるべき要素であった。

製作者側がパイクを活かそうと意図は伝わってくるのだが、そのためには演じるキャラクターを強化すべきで、そういう演技に方向性づけすべきで、それは成功しているとはいい難い。

この謎を解きたいと考えるのは誰か? ヘレン。

※そこにリーチャーが加わる「意味」を伝えることで物語が立ち上がり、生命を吹き込まれる。謎解きは装置であるべきなのだ。

リーチャーを求めるのは誰? ヘレン。そして観客。

このように本作を構成しないと、“トム・クルーズの新作アクション映画を求める観客”を獲得できるのが最大値となり、セールス的にも作品の魅力としても息切れになってしまう。※実際にあまり盛り上がらなかったようだが。

アカデミー賞狙いのような作品ではないが、クラシックな魅力を持つ、DVDやブルーレイのソフトを保有して映画ファンが何度も観たくなるような、かっちりした作品にはなりえたはずなので敬意をこめて文章を書かせていただきました。

あ、ロバート・デュバルも、いいところで出てくるいい役でしたけど、ここも、もっと活かせるのに……と感じた次第。
※主人公とデュバルの役がお互い静かに認め合う場面が不足している。

utateno