劇場公開日 2015年8月1日

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「いいところを探すのが難しい」進撃の巨人 ATTACK ON TITAN アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

1.5いいところを探すのが難しい

2016年8月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

単純

原作コミックを途中まで読んだだけの状態で見に行った。アニメもあるらしいのだが未見である。コミックの実写化には大きなリスクがある。まず,コミックの登場人物は動かないし,声も聞けないので,読者は勝手に想像して読んでいる訳だが,実写となると固有のイメージを押し付けられることになり,こんな奴じゃないはずだという意見が多数を占めてしまうからである。また,この作品の原作コミックは絵柄がかなりラフなので,巨人が人間を補食するという設定があるにも拘らず,あまり生臭さを感じずに済んでいるという恩恵があるのだが,実写となれば相当なリアリティが出てしまうといったことである。過去の大多数のコミック実写化映画が討ち死にしているので,かなり不安だったのだが,これほど不安が的中するとは思っていなかった。

まず,巨人は最初の1頭だけが特殊なのであろうか?煙なのか埃なのか,良く分からないやたら物々しい雰囲気に包まれて登場して来るのに,2頭目以降は最近よく見る「安心して下さい,はいてますよ」の芸人が大挙して現れたのかと思わせられるほど段違いの手抜きを感じさせる作りだったのには仰天させられた。樋口監督と言えば,平成ガメラシリーズなどで知る人ぞ知る特撮出身のキャリアの人のはずなのに,人間と巨人を合成したシーンの出来の悪さには目を覆いたくなった。

脚本がまた酷い。一体誰が書いているのかと思えば,映画「20世紀少年」で原作と違う話にしてしまった渡辺雄介と,もう一人は何と映画評論家の町山智浩である。まるで大リーグの野球解説者に,いきなりヤンキースの4番を打てと言ってるようなものではないのかという気がする。音楽評論家の宇野功芳がプロオケを指揮した演奏がいずれも到底正統派とはいえないキワモノ的なものばかりで,音楽ファンの中ではお笑いネタとしてしか聞かれていないという実情を彷彿とさせるものであった。

まず,主人公の行動に全く同感できず,人間的な魅力も一切ないというのはどういうことなのであろうか?「巨人は人の声に敏感だから叫ぶくらいなら舌を噛め」というルールを敷いておきながら,主人公が平気で絶叫して窮地に陥るなど,馬鹿じゃないのかという思いをさせられたのにはホントにウンザリであった。時間短縮のためか,ヒロインとのなれ初めも完全にカットしてしまったために,後のシーンの説明がつかなくなってしまっていたのはもう致命的と言える酷さであった。町山氏の Twitter を見ていると,絶賛コメントばかりを Retweet しているのが痛々しい。今後の彼の評論家としての活動が,他人事ながら懸念されるほどである。

役者は恐れた通りの状況で,主役級に全く魅力を感じないばかりか,こいつさっさと食われてくれないかな,と思わせられることも多々あった。特に石原さとみが演じたキャラが出て来る度に,あり得ないほど世界観がぶち壊しにされるのは耐えられなかった。2005 年の NHK の大河ドラマ「義経」で,こいつの演じた静御前に許し難いほど雰囲気をぶち壊しにされた苦々しい思いが昨日のことのように蘇って来た。他のキャラも,とにかく人物設定が薄っぺらく,食い意地が張ってるヤツはずっとそればかりだったり,子供と別れて戦っている女がとんでもない振舞いに及んだりで,人間関係の深みといったものが一切感じられなかったのは「バトル・ロワイヤル」並であった。

音楽は,エヴァンゲリオンを担当した人らしい。これまた情景をなぞるだけの音楽ばかりで,まるでファイナル・ファンタジーの音楽のように一切耳に残らず,胸を打つこともなかったのだが,これで良いのであろうか?エンドタイトルでラップのような曲が流れて来たのには,昨年の地元の屋外グルメイベントを彷彿とさせられて本当に腹が立った。

とにかく,この監督は特撮監督だけやっていて欲しかったというのが率直な印象である。補食される人間が次々と容赦なく食べられて行く中で,主要なキャラが食べられそうになると,その時ばかり巨人がやたらゆっくり口に運ぶのは非常にわざとらしかった。唯一褒めてもいいと思ったのは,終盤で,どう見ても松本智津夫にしか見えない巨人を登場させてボコボコにしてくれたという点だけである。巨人の猥雑さや補食のグロさなどは,まるで朝鮮製のグロ映画のようなテイストを感じさせられて気分が悪くなったし,見て良かったと思える点はほぼ皆無という今年観た中で最低の作品であった。後編など見る気も起きない。
(映像4+脚本1+役者1+音楽1+演出1)×4= 32 点。

アラカン