劇場公開日 2011年12月10日

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エル・ブリの秘密 世界一予約のとれないレストラン : 映画評論・批評

2011年12月6日更新

2011年12月10日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー

料理開発ではなく、テクノロジー時代の創造とは何かを描いたドキュメンタリー

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わずか45席に年間200万件の予約希望が殺到すると言われていたスペインの3つ星レストラン「エル・ブリ」。「世界で最も革新的なシェフ」と呼ばれたフェラン・アドリア。そういう決まり文句だけ聞くと、天才的な感性の料理人が悪魔のように腕を振るっている話かのように思える。しかしこの店のスタッフたちの料理開発の過程を追ったこの映画には、そういう「感覚的」「感性的」なドラマチックさはかけらもない。まったく異なる次元で「料理」という行為が映像表現されているのだ。

新料理の実験を収めたパソコンのハードディスクをチームのひとりが誤って消去してしまい、フェランが怒り狂うシーンがある。別のスタッフは「全部紙に印刷してあるから大丈夫ですよ」と宥めるが、彼は「何を言ってるんだ! データこそが大事なんだ。紙なんかどうでもいい!」と憤る。ここにこそエル・ブリの料理の真髄がある。データを徹底的に操り、そこから新しいものを生み出していく。まさしくそれはデータマイニング(解析)であり、プログラムのコーディングに他ならない。彼はそのようにして新しい料理を生み出しているのだ。

感性は大事だけど、感性だけでは新しいものは生まれない。徹底的に技術を駆使し、構築的に実験を積み重ね、その向こう側に初めてきらめきのような感性が立ち現れてくる。まるで故スティーブ・ジョブズとアップルの技術チームが皆で新しいiPadやiPhoneを設計し、デザインする過程を見ているようだ。そんな錯覚さえ覚える映画なのだ。

だから、これは料理の映画ではない。テクノロジー時代の創造とは何か、を描いた映画である。もちろんできあがった料理は、スクリーンで見ても途方もなく美味しそうだけどね。

佐々木俊尚

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