劇場公開日 2012年11月3日

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「凍て付く過去を溶かす唄」北のカナリアたち 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0凍て付く過去を溶かす唄

2012年11月5日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

幸せ

かつての教え子が殺人を犯したという報せを受けた元教師の女。
それをきっかけに、離島の分校で起きた20年前の悲劇の真相が、
教師と生徒6人の視点を通して紐解かれてゆく……。
正確には違うが、いわゆる“羅生門”スタイルに近い語り口のミステリー。

まずは役者だけでも見応え十分。
吉永小百合は、40代を演じるのは流石にやや無理があると思うが(苦笑)、
暖かさと慈悲深さが滲み出る存在感が役にピタリとはまっている。
満島ひかり、宮崎あおい、松田龍平を始めとして、
単独でも主演を張れる若手実力派達もキッチリ良い演技。
子役も映画の雰囲気を崩さない演技だった。唄も抜群だしね。
あと、石橋蓮司や里見浩太朗といったベテランに混じって、
意外や福本清三が好演していたのが印象的。
(クリスマス会での表情、凄くステキだった)

厳格な自然風景も美しい。
荒々しい海と、穏やかに光射す海。こちらの芯まで冷え込むほどに吹き荒ぶ雪。
その中で、劇中の台詞そのままちっぽけに佇む人間たち。

深く深く降り積もった雪は、まるで主人公らの時間が
“あの事件”以来凍り付いたままである事を示すかのよう。
この物語の誰もが過去の自分を恥じ、雪に足を取られるかのように、
うまく身動きが取れないまま生きている。

その過去を溶かす、最後の暖かな唄声。
誰かが自分の事を心配してくれる。生きてて欲しいと言ってくれる。
それがどれだけの救いになるか。
人が前に進むには、人の優しさが必要なんよ。
打ちひしがれた者に、象牙の舟と銀の櫂を与える優しさが。

「俺は何を忘れてきたんだろうなあ」

忘れたくても忘れられない、謝りたくても謝れない、小さな頃の大きな後悔。
そんな記憶のひとつやふたつ、誰しも抱えているものじゃないかしら。
とうの昔に忘れた気でいたのに、時々ふっと顔を覗かせては心を苛む、そんな記憶。
これは、そんな後悔についての物語なのだと思う。

難点を言うなら、
随所の展開や設定がドラマチック過ぎて作り物っぽさが出てしまった点かな。
先生が来たその日に不倫相手の妻と口論になったり、
もうすぐ海外に発つ事になってたり。
一番違和感を感じたのは、仲村トオル演じる人物の設定。
突飛というか、この物語とは少し遊離してる気がした。
あと、森山未来の吃音の演技は少しやりすぎかな。

とはいえ、心暖まる秀作ミステリーです。
是非、劇場でご鑑賞を。

<2012/11/3鑑賞>

浮遊きびなご