劇場公開日 2011年12月3日

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「早々の親離れは身を助ける、という教訓」ピザボーイ 史上最凶のご注文 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5早々の親離れは身を助ける、という教訓

2012年1月23日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

興奮

怠惰で驕りたかぶった「勝ち組」の裏をかき、運と団結で「負け組」が成功を手に入れる。犯罪ものやコメディでは定番の筋書きだ。ところが、本作で槍玉に上げられるのは、落ちこぼれで怠惰な「勘違い負け組」。ありがちなドタバタコメディと思いきや、物語は意外な方向へと勢いよく転がっていく。
タイトルなどから予想していた「ピザを30分で届けられない、トホホな主人公に降りかかる不運の連鎖」は、冒頭であっさり覆された。彼は、「届けられない」のではなく「届けない」のだ。(自称)走り屋としての腕を発揮するために、ピザ配達業を選んでいるに過ぎない。だからこそ、指定時間を過ぎても堂々と玄関口に立ち、小生意気なティーンエージャーの客を手玉に取る。
件のガキどもに始まり、この物語でひどい目に遭うのは、総じて親の庇護に甘んじている子どもたちだ。主人公に強盗を強要するドラ息子(以下、略して「ドラ」に。)は、言動に加えて身体つきまでだらしがない。父親の財産を横取りしようと、犯罪の誘いに軽く乗っておきながら、実行は面倒だと人任せにする。彼らを威圧する父親もまた、海軍上がりであることを鼻にかけ、老いてもなおアメリカという国家に寄り掛かっている。一方、主人公は両親の離婚で自活しており、マイノリティ=インド系である同居の親友とその妹も、地道に働きつつステップアップを狙っている。
ちゃちな犯罪計画に巻き込まれた主人公たちは、開き直りと勢いで苦境を打破しようとする。警察に駆け込めば、頭の悪いドラなど簡単に捕まりそうな気もするが、銀行に急行してきた警察官を見れば、彼らの選択が正しかったと分かる。警察もまた、甘ちゃんな子どもに過ぎなかったのだ。(そしてもちろんドラたちは、CIAとFBIとNASAの区別さえ付いていない!)
親がなくても子は育つ、親離れ・子離れの遅れは身を滅ぼす…そんな教訓が、ふと脳裏に浮かぶ。壮快にして、アクションが派手な分だけうら悲しさも漂うコメディだ。
…ところで、主人公が働く店のピザはどんな味がするのだろうか? 冒頭のガキ二人は「まずいから注文した」とほざくが、イタリア系の店主が焼くピザは、案外美味しそうに見えた。できることなら宅配は遠慮して、店でゆっくり(安全に)試してみたい。

cma