劇場公開日 2012年9月21日

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「映画的な評価よりも理屈抜きにロックでノリノリになるべき作品」ロック・オブ・エイジズ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映画的な評価よりも理屈抜きにロックでノリノリになるべき作品

2012年9月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 絢爛豪華なセット、登場人物の圧倒的な歌唱とと力とそれを活かすシンプルなストーリー。ハリウッドが最も得意とするジャンルの作品なので、見ていて絶対に飽きてくることはありません。
 けれども映画的にはもっとシカゴのようにアメリカンドリームに向かって突き抜けていく高揚感が欲しかったです。

 意外にも、主役はトムが演じるロック界のスーパースターステイシー・ジャックスではなくて田舎から単身成功を夢見てLAにやってきたボーカル志望の少女シェリーでした。「ボーイ・ミーツ・ガール&サクセス」というテーマ曲を地でゆくシンプルなストーリー。ロックの殿堂“バーボンルーム”で働く青年ドリューと知り合ったことで、伝説的なライブハウスを舞台にした恋物語とサクセスストーリーが進行していくのがメインなのです。

 やや準主役ぽいステイシーの扱い。しかし、そこはなんといってもトムの役作りが超絶していて、注目度抜群なのです。なにしろそのなりきり度といったらパーフェクト。半年近くボイストレーニングを積んだという歌唱力、ステージパフォーマンスは、本物のロックスターも脱帽するくらいのカリスマを感じさせました。だからこそ、ステイシーの目を合わせるだけで美女を失神させる強烈なセックスアピールを発揮する現実離れした役柄も納得させられてしまうのです。

 トムにとって、ステイシーとは自分の中にあるアバターのようなものではないでしょうか。それはスーパースター独特のダークサイドな一面なのではないかと感じました。トム自身この作品の舞台となる1987年には前年に公開された『トップガン』が大ヒットし、一躍スターダムにのし上がった思いで多き年なのです。だからこそ、ステイシーの孤独感や虚像化されていく自己イメージに自嘲していくところに深い共感というか、隠しがたい感情の吐露に近い感覚で真に迫ってくるものを感じさせてくるのです。
 トムもプライベートでは宗教にはまっていることで有名です。ステイシーもステージでは愛を熱く語りかけるのです。しかし、ロック専門誌のインタビューに、ステイシーは答えて自分は愛が解らないと告白するのです。そして、自分はファンの快感を満たすセックスシンボルでしかないと自嘲します。そんなネガティブな想いをトム自身も持っているのではないでしょうか。そういえば、ステイシーのネガティブな想いは、ハーレムのような女と酒に入り浸る退廃的な生活に追い込んでいたのです。その自室の雰囲気といったら、まるでカルトの教祖のような怪しい輝きを放っていたのです。だから、よくぞこんな役を引き受けたものだと思ってしまいました。

 また、ステイシーの人気にあぐらをかいたような横柄な態度は、自らのバンド仲間とも険悪になり、追われるようにソロシンガーとして独立せざるを得なくなっていました。けれども、マネージャーのポールをはじめ取り巻きは誉めるだけで、誰もステイシーの問題点を指摘しようとしません。唯一『ローリング・ストーンズ』誌の女性記者サックだけが、歯に衣着せないあけすけな質問をしたところ、怒りながらもステイシーは意外な反応を示したのです。なんと自分を本当に解ってくれるサックに本気で惚れてしまうのですね。トム自身も、どこかステイシー同様に理解者を求めているのでは?

 さてこのころ、ラップやRBが台頭しつつあった音楽シーン。ロック界全体が凋落しつつありました。絶頂だったステイシーの人気も凋落しつつあり、バーボンルームは倒産の危機に。そして、デビューのチャンスを獲得したドリューも本人の意に反して、ボッブスシンガーの転向を、レコード会社から強要されてしまいます。
 街では、環境浄化を公約に当選した新市長を支援する奥様族が、ロック追放を合い言葉にデモ行進してたり、逆風が吹き荒れていました。
 しかし、バーボンルームのスタッフも、ステイシーも、絶対にロックを諦めません。ラストに“ロックは永遠”と歌い上げるシーンは最高の盛り上がりを示しました。

 ところで、ロック追放運動の先頭に立つ新市長の奥様パトリシアがロックに反対する本当の理由が明かされる隠された過去、それとパトリシアをギャフンと言わせるエピソードがなかなか傑作でした。もっと反対運動を盛り上げて欲しかったです。『シカゴ』でアカデミー助演女優賞に輝いたキャサリン・ゼタ=ジョーンズが演じているだけに、登場シーンでは見事なダンスパフォーマンスを披露していました。

 最後に、本筋の若いふたりの恋は、ちょっとした誤解から破綻し、元に戻っていくというお決まりの先が見える展開になってしまって、ときめきません。まるでミュージカルの添え物のような感じになっているところが、本作の能天気さを象徴していると思います。

流山の小地蔵