劇場公開日 2011年8月27日

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「リメイクとはいえ、もっとえぐい復讐になって然るべきでしょう。」ハウスメイド 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5リメイクとはいえ、もっとえぐい復讐になって然るべきでしょう。

2011年9月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 いくらリメイク作品とはいえ、韓国映画としては、ラストのヒロインの復讐方法がインパクトがないと思います。だいたい復讐になっていません。もし監督が『母なる証明』ポン・ジュノだったら、オリジナルを大幅に変えてでも、もっとえぐい復讐のドラマになったことでしょう。
 全編で感じるのは、韓国の男尊女卑の伝統です。上流家庭が舞台の本作では、一家の主人であるフンのいうことが絶対化されていました。たとえメイドであっても、ご主人さまが脱げとといったら、命じるままに裸になるし、舐めろといったら、躊躇わずにいたすのであります。80年代のニューウェイブが台頭するまで韓国映画では、女の方から愛を告白することやキスシーンすらタブーとされてきた、儒教的なお国柄がまんま繁栄されてきたのが韓国映画の伝統でした。
 だから『下女』は当時の韓国社会としては、女の下女がご主人様に復讐するという点で画期的な内容だったのでしょう。しかし、現代の日本人からすると、この程度のインパクトでは普通に感じてしまいます。下手すると、テレビドラマシリーズの『家政婦は見た! 』のほうがもっとえぐい人間模様を見せているかもしれません。リメイクされたとはいえ、作品時代の世界観は、あまり現代的にはならなかったようです。

 ここまで書くと、ダメな作品に思えてしまうかもしれません。
 しかし、映画的には巧みな演出を見せてそれなりに楽しむことができました。刺激的なビジュアルが見応えたっぷりです。まずは豪邸のイメージを極限にまで肥大化させたゴージャスなセットに目が奪われます。テレビの『家政婦』シリーズ同様に、別世界をのぞき見する愉しみを感じさせてくれる背景なのです。加えて、抑制の効いた色香の表現。ウニ役のチョン・ドヨンのぬぎっぷりは、凄いのですが、決してポルノ映画のようになりません。
 絡みのシーンが淡々として下女がご主人様に仕事として、割りきって体を任せているという感じで、不倫ならではの淫靡な感じが皆無なのです。それでも、童顔で無垢なウニがメイド服をまっとった肉体から発散する危うい色気には、ドキッとさせられました。
 ところでこのウニ、監督は単純な純情娘として一筋ならではに描いておりません。ご主人様と初めての情事に及んでたとき、ウニはどや顔でニタリと笑います。この子は計算づくだったんだと感じたとき、げに女という生き物の怖い一面を垣間見る思いでした(^^ゞ

 こういう世界には、ヒロインをいじめるお局様の存在が欠かせません。ヘラの若い母親がそれに当たります。ウニの妊娠を知った母親は、何とか堕胎させようと画策します。二階から事故を装って落としたり、果てはウニが健康のために飲み続けている漢方薬に毒を混ぜたり。本来なら、ドキドキさせられる展開であるはずなのに、どこかで見たことのある既視感たっぷりのシーンに見えてしまいました。『アジョン』では臓器売買で生きた人間の眼球をえぐるなど、常識を越えた描写がウリの韓国映画だけにもっと意外性のあるあくどさを見せつけてもよかったのではないかと思います。
 漢方薬に毒を盛るシーンなど、伏線で説明がくどくて、誰が見てもそうなるだろうというベタな展開だったのです。母親が狂気を感じさせ、何をしでかすか分からないモンスターピアレンツぶりを発揮してくれたら、本作のスリリングさがもっとアップしたことでしょう。

 家政婦が見た世界は、嬰児を堕胎させるために毒殺まで厭わない、異常な世界でした。「わが子」を殺されて一端はいかるご主人様も、いつしか異常な妻母子に懐柔されてしまいます。そんなヒロインにとって救いがたい状況の物語にあって唯一救いとなるのは、同僚の先輩メイドビョンシクの懺悔です。ビョンシクは全てを知っていました。まさに家政婦は見ていたのです。知っていたのに、嬰児の危機をウリに知らせませんでした。しかし余りに人非人な母親の態度とそれを庇うご主人にキレて、ウリに全てを告白して懺悔します。ウリと同じような過去を持つ、ビョンシクの思いのこもった懺悔の言葉を述べるシーンが感動的でした。さすが国民的名女優ユン・ヨジョンだけのことはある演技でした。
 それとヘラの6歳になる娘とウニのハートウォームなふれあいもなかなかいいです。娘の存在も、シリアスになりがちな本作みにあって、心をホットさせるオアシスのような可憐さを放ってくれました。

流山の小地蔵