劇場公開日 2013年1月19日

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「小津調と山田洋次調のコラボ」東京家族 アリアス元大統領さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5小津調と山田洋次調のコラボ

2013年7月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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 本作は小津安二郎監督の「東京物語」が元になっています。山田洋次監督は小津監督への敬愛の念をこめてカメラを取ったと発言していますから、小津調として有名なあのカメラワークとあの特殊な映像空間をそれなりに継承することが求められていたように思います。となると、小津映画に思い入れのある観客の目は厳しくなってしまうのですが、山田洋次監督は大部分、その問題はクリアできていると私は判断しました。

 小津調の最も分かりやすいポイントが、フィックス・ショットです。これはカメラを動かさずに対象物を撮る手法で、誰しもが使っている撮影手法ではありますが、小津の場合はこの撮り方のみに拘泥し、移動ショットが全くありません。そこが彼独特の撮り方なのです。小津調に関してはそれで学問になってしまうぐらい議論されているので、関心のある方は例えば、「監督 小津安二郎 (著 蓮實 重彦 ちくま学芸文庫) 」などを参照されることをお勧め致します。

 本編の大筋は原作と変わりません。時代が戦後から現代に置き換えられていること以外に、老夫婦の外泊先が熱海から横浜になっている点など、これらも今風に調整されているだけで私は問題ないと考えています。小津調の継承については、フィックス・ショットのみで構成されているので基本的には問題ありません(例外として3箇所ほど無駄な?移動ショットがありますが)。しかし、小津映画において男の世界とされる住居の1階部分と、女の空間とされる2階を接続している「階段」が滅多に撮られなかったのに、本作では安易に映ってしまっているのが個人的には(小津調を考えると)残念でした。

 しかし、小津調を遵守することのみに気を遣って、山田洋次監督らしくない作品になってしまうのは本末転倒です。監督はその辺りの舵取りがしっかりしていて、上手に現代の観客の嗜好に合わせた映画に仕上がっていると思います。

 最後になってしまいましたが、この映画は小津映画が分かっていることを前提に作られた映画ではないように思われます。つまり、小津映画を見たことがない人でも十分に楽しめるようになっているのです。そして、小津調を知っている人にとっても、山田洋次監督の小津調へのオマージュが感じ取れるようにもなっています。色々と書いてしまいましたが、個人的には老若男女問わず、構えずに観て欲しい映画です。

アリアス元大統領