劇場公開日 2011年2月26日

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「嗜虐性という内なる悪魔」悪魔を見た 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5嗜虐性という内なる悪魔

2011年4月16日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

興奮

今更ながら忠告!
この映画は食前・食後には絶対にご覧にならない方が良いかと。
R18指定も納得のエログロ描写もさることながら、そういう描写に慣れっこの僕でも
「あ、いや、そこまで見せなくていいです……」とドン引きしてしまうシーンがある。
忠告するならもっと早く忠告しろよって話だが……遅筆なもので。

人を人とも思わぬ殺人鬼に婚約者を殺された刑事が、殺人鬼に復讐を謀るが、復讐を実行する内に自分も殺人鬼と同じ立場になることに苦悩してゆく、という話。

チェ・ミンシク演じるこの殺人鬼がまァとにかく悪い。同情の余地など一片も無い。
若い女性が独りでいる所を狙い、親切な人間を装って誘拐し、手を付け、最後は生きながらにバラバラにする。
邪魔する人間は殺す。女と見れば襲う。
こいつを鬼畜と呼んだら鬼や家畜が気の毒に思えるし、クズ野郎と呼んだら紙クズが気の毒に思えるってなくらいの悪党である。

イ・ビョンホン演じる刑事は割とすぐに殺人鬼を捕らえるが、この映画はそこからが本番だ。
例えば愛する人を殺した人間や、何人もの人を無惨に殺した人間に
死刑判決が下されたと聞いたら、こう考える人は間違いなく居るだろう。
「殺しても殺し足りない。そいつが心底後悔するまでじわじわなぶり殺しにするべきだ」
主人公の刑事はこの暗い願望を実践する。
そこに爽快感を感じてしまうのも、認めたくないが事実だ。
情け容赦無いっつーよりかは“やりすぎ”と呼べそうな描写が多いのも多分、
暴力そのものに不快感を覚えさせる意図があるんだろう。

だからまあ、不快感を感じるのは当然の反応なのかもね。
終盤の展開も全く救いが無く、なんだかどんよりする。

怒りや憎しみに駆られて行動した所で心は救われないし、
そんなものの為に人間性を失うことは悲しい。
そんなメッセージが込められているのかも知れない。

だが殺人鬼があまりに人間性が薄い為、刑事が殺人鬼と同じレベルに墜ちてゆく、
という印象をあまり受けないのが難点か。
主人公が復讐——正統だと誰もが感じる暴力——に魅力を覚えていくという描写が必要だったのではと考える。
全体的に少し冗長な点も気になるかな。

何はともあれ、鑑賞に体力の必要な映画です。
よく出来た映画だとは思うが、鑑賞後は胸焼けでも起こしたかのような気分に。
高評価を付ける方がいるのも納得だけど、個人的にはどうも好きになれないなあ。

<2011/4/2鑑賞>

浮遊きびなご