劇場公開日 2011年5月28日

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4.0今日の一句『投げるなら 火炎瓶より 声援を』by♪Aぇ〜Cぃ〜♪

2011年6月4日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

火炎瓶を投げまくった闘士達の成れの果てが、後にレバノン空港乱射や企業ビル爆破テロ、あさま山荘事件etc.の凶行に迷走していく顛末を知る70年代生まれのしらけ世代には、右やら左やらとか面倒くさい思想とは無縁である。

ノンポリ故に日米安保の争点って何やったのか?が知ったこっちゃなかったが、一番わかってなかったのは、当の妻夫木聡、松山ケンイチ2人だったのではないだろうか。

ベトナム戦争が泥沼化の一途を辿っていたアメリカに対する嫌悪が発端だった安保闘争なのに、2人の談義には、ロックバンドCCRの名曲『Have You Ever Seen the Rain?』やジャック・ニコルソン主演映画『ファイブ・イージー・ピーセス』etc.アメリカのサブカルチャーばかりが引用される。

結局、アメリカに対して憎悪より憧れが勝ってしまう日本人感情を物語っていて感慨深かった。

「日本人ってカブレやすくて、冷めやすい民族なんやな」
と少し呆れたけど、確かに
『真夜中のカーボーイ』のダスティン・ホフマンの最期は、純粋に泣けてくる。

妻夫木はスクープへ、松山は革命へと、純粋と欲望が狂おしく行き来する破滅模様は『ブラック・スワン』のナタリー・ポートマンを彷彿とさせる振り子の法則を感じた。

しかし、追う妻夫木は白の化身、迎える松山は黒の化身(ストーリー的なら背景色は赤かな)と、単純に当てはめられない。

両者の自暴自棄な欲望の混ざり合いは、やり場のない憤りがコダマした時代に介入した若者の抱え込んだ複雑骨折のような対峙と云えよう。

そして、独り善がりに激しく往復する各々の振り子は、社会にとって、所詮、一つの歯車に過ぎない。

散々、苦悩した己の叫びなんて、世の中は容赦なく無関心に時を刻みゆく。

“絆なぞ信頼より裏切りが占める(絞める)代物”

そんな世の無情を思い知って、人間ってぇ生物は大人になるのだとしたら、この時代の振り子は無駄に血を多く流し過ぎている気がしてならない。

では、最後に短歌を一首

『砦陥落(お)ち 託した雨に 眼(芽)は若く 翼は苦く 赤く萎んだ』
by全竜

全竜