劇場公開日 2010年5月1日

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「中の下だからがんばるしかない」川の底からこんにちは えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0中の下だからがんばるしかない

2023年4月4日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

素晴らしい映画でした。

無気力な東京OLが父親の病気をきっかけに家業のしじみ工場を継ぎ、
ドタバタしながら切り盛りするハートフルコメディ。

満島ひかりの演技が際立っている。
傷つくのが嫌だから本気を出さないようにしている無気力な情態から、
色々なことの泥沼化が極限まで達した後の飛び抜けた疾走感に変容する、
無理に表現するなら「上昇落差」の演技に、一切の不自然さ感じさせない。

物語の肝ともいえる主人公の「上昇落差」はかなり難しいと思う。
ひとりの人間に通底する、抑圧された、愛おしくも矛盾する二面性を
実に見事に演じきっている。
たぶん、ここ白々しくなってしまうと、映画全体の面白さが全て消失する。台無し。

叔父さん役の岩松了もいい。
田舎の下世話でいやらしくて、だけど絶妙に手堅くて暖かい親戚のおじさん。
ちょっと面倒くさいんだけど、いるとちょっと安心しちゃう。

作品全体を支配する、字面とはちょっと違うニュアンスの加速力や
音と光でしか表現しえないおかしな空気の演出も魅力。
改訂版・社歌を歌うシーンなどは、なぜか知らんが笑いながら号泣して観た。

固く言うと、ニーチェの強さのニヒリズムの体現、
作中のことばで言うと、中の下だからがんばるしかない、とのメッセージは、
僕らに使い勝手のいい勇気を与えてくれる。

普段あまりないのですが、何度も見返したくなる映画でした。

えすけん