劇場公開日 2010年10月22日

雷桜 : 映画評論・批評

2010年10月19日更新

2010年10月22日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー

喪失を埋め合わせ解放し合う魂の彷徨

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設定を聞けば出来すぎたおとぎ話のように思える。筋だけを追えば泣かせることに懸けたあざとさが鼻につくように感じる。しかしここにはアウラ(オーラ)が宿っている。それは今を感じさせる役に同化した主演俳優2人の化学反応による息づかいであり、内的崩壊を抱えた男女の機微を熟知する演出家の生理によるものだ。

アニメーションでしか成し得ないような美しき情景の中で、ナイーブな岡田将生とワイルドな蒼井優の表情に見とれるのもいいが、本作は単なるロマンスものを超えている。将軍家の血を引く若殿と豊かな自然の中で育まれた少女の身分違いの恋物語ではあるのだが、悲恋ファンタジーと呼ぶにはあまりにも痛ましい過去が2人を覆う。ここで描かれるのは、愛されることに飢えて精神を病んだ男と、性すら意識することなく山奥で育った強靱な女の出会いだ。男性性と女性性が惹かれ合うエロスではなく、互いに喪失したものを埋め合わせるようにして、求め合い解放する愛。物語の主軸は、環境に適応できず壊れた青年が癒されていく心の変容である。「告白」「悪人」に続いて岡田将生は、現代的な病を見事に体現する。

これは、生きづらさの中で出逢った歪な者たちの魂の彷徨であり、閉塞しがちな若者に光明を与える可能性の映画だ。号泣するために足を運ぶのもいいが、流れる涙の理由を自らに問うことで心の深奥を探り、映画館という暗闇を自分だけの孤独な聖地にしてほしい。

清水節

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