劇場公開日 2011年1月15日

「むしろ」僕と妻の1778の物語 grassryuさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0むしろ

2011年2月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

なかなか辛辣な批判も散見しているようです。
涙涙~感動の名作でした、という評も多い。

ま、どっちでもなかった、というのが正直な感想です。

竹内結子さん演じる節子には、とても気の毒で激烈な境遇にあるにもかかわらず、あまり悲壮感を感じさせず、いつもながら抑えの利いたいい演技で、原作や脚本に忠実でありながら随所に彼女らしさを垣間見せ、とてもよかったと思いました。

ちょっといないかなって人種のサクを、やはり彼らしい味で朴訥・天然・一途に演じる草彅剛さん、これも原作・脚本に忠実にこなしてて、及第点以上の好演です。

サクと節子のちょっとした距離感、ほとんどは真っ直滑降なサクを節子がどうあやしなぶりいなしかわし向きあい愛するかによって決定付けられてきた二人の、愛に溢れそれでいて微妙にすれちがう関係は、突然の節子の病魔によって、でもやっぱりなんにも変らないのですねー。
やっぱり一途に、節子の喜ぶ顔みたさに小説を一遍ずつ書き連ねては節子に見せ、その喜ぶ顔に喜色満面となるサク。シチュエーションと生活は激変したものの、二人の関係には何ら変わるところなく、またその関係を未来永劫紡ぎ続けたくて、延々と毎日の執筆作業に勤しみ、その成果を唯一の読者に披歴する。

境遇の過酷さ、その後の闘病生活、過酷な毎日の執筆、その他もろもろ、という二人をとりまく厳しい状況に対し、自分へ及ぼしうる限りの目一杯の感情移入で観ていたつもりなのですが、感動や涙はまったくありませんでした。

それはこの二人の関係に、「かかあ天下」、「節子主導」というものが名状しがたく拭いがたく確としてあって、節子が元気なときから病気にさいなまれやがて死に至るまで、いや死んでもなお、サクは捉われ続けていたかったからでしょう。ネタに苦しみ日々悶々とするさまも、この関係の維持のためならなんら厭うものではないし、むしろその苦悩と煩悶を経て編み上げるように書きあげた一遍一遍は、すべて節子の評価に付されて、節子の喜びの多少によって、サクのその日の幸せ具合が決められていく。いつものように…

ここら辺り、愛し合う二人でないとやはり究極のところはわからない微妙な機微、愛のない僕には適切に捕らえきれなかったということになりましょうか。
ここまで節子を求めるサクの心情、なんらそういったシーンはほとんど皆無でしたが、むしろエロチックなんじゃなかろうかと感じました。

grassryu