「中井貴一くらい、バタデンもかっこよく撮ってくれていれば...」RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5中井貴一くらい、バタデンもかっこよく撮ってくれていれば...

2010年5月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ともかく、主演の中井貴一がカッコいい。エリート街道を走っていた中年の男が、突然に子どもの頃からの夢に向かってローカル電車の運転士になる、というのは、まさに現代の男のロマンであり、憧れそのものを演じているのだから、かっこよく見えるのは当たり前かもしれない。自分も電車の運転士に憧れた子ども時代を過ごしていただけに、この作品は自分の夢を投影している。新鮮味のないストーリーでキャラクターも類型的ではあるが、男が一度は胸に抱くロマンを表現しているだけで、この作品は合格点をつけてもいいくらいだと思う。

 ただ、鉄道好きだからこそ言いたくなることもある。この作品の本当の主人公は、出雲の地をはしるローカル鉄道の一畑電車、バタデンだ。なのに、せっかく大きなスクリーンに登場する映像はキャラと同じように類型的すぎて面白味もかっこよさも感じなかった。電車というのは、撮る角度や夕陽に照らされたときのシルエットによって、とても美しく見えてくる。正直、電車好きのスタッフがいれば、もう少しバタデンの登場シーンは、主演者よりもカッコよく、印象的なものになっていたと思う。そこが、なにより残念だ。

 そして物語の内容だが、少し主演者たちの家族に焦点を集めすぎたのも、イマイチ気に入らない。東京の大会社のエリートから見た、採算をとるのが精一杯のローカル電鉄会社の実態や、出雲という独特の風土に特化した物語だったら、よりバタデンも類型的に見えたキャラ設定も、スクリーン上に生き生きとしたものに見えたようにも思う。もう少し、地方に目を向けたドラマにしていれば、この作品は単なる男のロマンを描いただけでなく、さらに深みのあるものになっただろう。素材が良かっただけに、ちょっと惜しいと感じる作品だった。

こもねこ