劇場公開日 2020年2月21日

「音楽と色彩・佇まいの美しさに圧倒される。」シェルブールの雨傘 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5音楽と色彩・佇まいの美しさに圧倒される。

2019年3月4日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

興奮

萌える

遠距離恋愛の悲劇。
 よくある話と言えばよくある話だけど、だからなおさらその悲劇に我がごとのように心かき乱される。遠くの親戚より近くの他人とは良く言うけど、だけどね、やっぱり純愛を期待しちゃうのに…ああ。

現代と違うのは、未婚の母に対する風当たり。
 今でこそ珍しくはないけれど、この映画の設定の時代ではあり得ない、ましてやある程度の階級に属する女性には。
 カトリックの国。国は違うけれど、『あなたを抱きしめる日まで』が頭をよぎる。
 そんな時代を考えれば、「アルジェリアがあんな状態だから結婚は」と言いながら子をなすようなことをしていくなんて、ギイも無責任だなあと親の立場からは思う。
 それが、16歳と20歳の青春なんだと言われてしまえば、そうなんだけれども。

全編歌。吹き替え。
 なので今ひとつ演技的には深みにかけるけど、なんて斬新な試み。オペラを想定したそうな。

特筆すべきははその色使い。
 ファッションは元より、インテリアとの兼ね合い。
 一見の価値あり。
 インテリア・着こなし、佇まいの手本にもしたい。

その中でも、オープニングの傘の乱舞が見事。
 映像と音楽の魔術にかかったまま、物語に誘われる。

この映画を普遍のものにしているのは、なによりラストの展開だろう。
秀逸。
 数年後、クリスマスの出会い。これがまた超現実的。
 人生なんてそんなものさ。そうするしかないのさ。そう思いながらも二人の胸の内を推し量りながら、涙がはらはらと。
 色数は少ないながらも、圧倒的な色と音楽に、いつまでも余韻に浸りきってしまう。

とはいえ、
 基本ドヌーブさんありきの映画。
 ジュヌヴィエーヴのこの世のものとは思えない美しさと、マドレーヌの地に足ついた美しさ。母の品格ある美しさが、美しい音楽と相まって、夢の世界に連れて行ってくれる。ピリリと胡椒を効かせた甘い世界。

戦争が引き裂いた二人の悲劇。長距離恋愛の悲劇。周りにもよく転がっているし、ドラマの題材としてはありきたりのもの。
 その王道の恋愛物語を、シンプルに枝葉なく描き出した映画として、この映画以上のものがこれからも生まれるのだろうか?

叶わなかった恋に想いを馳せつつ、夢に浸れる映画です。

とみいじょん