劇場公開日 2009年5月30日

  • 予告編を見る

「単館上映はもったいないです」路上のソリスト kerakutenさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0単館上映はもったいないです

2009年6月7日
鑑賞方法:映画館

悲しい

ホームレスの天才チェリストにジェイミー・フォックス、
それを取材する記者にロバート・ダウニー・Jr.
この映画はもうこの二人につきます。

新聞のコラムに感動した読者から
プレゼントされたチェロに目を輝かせて
すぐにも弾いてみたくて
車がひっきりなしにとおりすぎるトンネルで
30年ぶりにチェロに触れるナサニエル。
ふたりきりのコンサートのシーンが印象的でした。

Rayで盲目のピアニスト、レイ・チャールズを演じたときの
ジェイミー・フォックスもすごかったですが、
ナサニエルを演じられるのは彼以外にない!
とだれもが確信するような、鬼気迫る演技でした。

そもそも二人の出会いは、
弦が2本しかないバイオリンを弾いているホームレスが
「名門ジュリアード出身」ということを偶然知ったロペスが
「このギャップはコラムのネタになる」と興味をもったことから
始まるのですが、ナサニエルと深くかかわるうちに
彼をこのまま「掃きだめ」に捨てておいてよいものか悩み、
仕事上のかかわりを越えて、あれこれ奔走して尽くします。
でも良かれと思ってしたことで、
逆にナサニエルに敵意をもたれてしまい、
ロペスは傷つき、苦しみます。
というのも、ナサニエルには「統合失調症」があり、
自分をおさえきれなくなったり突然凶暴になったり・・
ジュリアードを辞めた原因もそれでした。
ナサニエル自身もまた苦しみのなかにいるのです。

ロスにいる9万人もの路上生活者の実態。
ランプコミュニティなどの支援施設での
ボランティアたちの活動。
ドラッグが蔓延し、治安も衛生状態も劣悪な
彼らの生活空間・・・・
そういったアメリカのかかえる問題も
描きつつ・・・なので、
この映画、決して気分爽快になれるような
娯楽映画にはなっていません。
Rayでも、ドラッグ依存から立ち直るための
苦悩が描かれていましたが、
それ以上にいろんな苦しみに胸がつぶれそうになります。
ロペス自身の妻との関係、94年のノースリッジ地震で失ったもの・・
まで登場して、もう、苦しみのオンパレードです。

だから、カンドーして、気持ちよく泣いて、すっきりして帰りたい、
たとえば「奇跡のシンフォニー」とかがお好みの方には
この映画お勧めできないです。

苦しいこと、見たくないこと、報われないこと・・・
イヤなことは数あれど、音楽に陶酔しているときの
ナサニエルに「神の愛」を感じ、
ともに神の恩寵を喜べるのだったら、
日々のイヤなことなんて、その瞬間は吹き飛んでしまいます

もしこれが「ドキュメンタリー」だったら、
ロスの路上生活者や精神を病んだ人達の実態や政策の問題点など、
問題を提起しながら、ある程度結論をだすのでしょうが、
そうでないところが、「私は」好きなので満点です。

kerakuten