劇場公開日 2010年12月11日

「エモーショナル」ノルウェイの森 わんこ0311さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5エモーショナル

2010年12月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

封切り初日、朝一番の上映で見た。

監督がどんな人なのか、どういう配役なのか、どんなストーリーなのか一切の情報を持たずに、「公正に」見れたと思う。

主人公のワタナベ君の最後のセリフとエンドロールの間、自然に涙がにじみ出てきた。とてもエモーショナルな映画で、見終わって二日目の今日もずっと動揺している。

映画を見た後、はじめて小説の『ノルウェイの森』を読んだ。
この有名な小説の第一章を読んだところで、この映画がとても上手く、作者が意図していた世界観や空気を表現していると感じた。

小説では文章によってストーリーや登場人物の想いが語られる。風景の描写、やとりとめもないセリフ、ワタナベの感情の積み重ねによって物語が淡いタペストリーのように編まれて行く。
それを映画では、風のざわめき、草原の様子、スローモーションによるプールのシーン。そして音楽が物語を進めて行く。
小説では言葉でしか表現できない部分、きっと作者が言いたくても言葉では表現でききれなかった行間の部分を、シーンを積み重ねてストレートに表して、見るものに迫ってくる。

小説を読み終わって改めて思うのだけれど、この映画以上に美しく、切なく、悲しく、適切にこの物語を表現できるとはとても思えない。

映画を見たあと、原作を読んだのは始めて。
映画のエンドロールで自分が流した涙の理由を、どうしても確かめたくて小説を読まずにはいられなかった。

そうして気づいたのだが、あるいはとうに分かっていて受容できなかっただけかもしれないのだが、ぼくはワタナベ君や緑の側の人間ではなかった。
キズキ君や直子の側の人間だった。

映画のなかで、ワタナベ君に求められながらも、その優しさに答えられなかった直子の気持ちがとても切実に感じられた。
直子がだんだんと壊れて行くにつれて、直子の感情がしみいるように僕の心を浸食していく。
それはとても怖くて悲しくて、そして美しくてどうしようもなかった。

地味な映画なので興行的に報いられるかはとても疑問。けれどいろんなことを感じられる観客にはきっと生涯のなかでもベストに入る映画だと思う。

わんこ0311