劇場公開日 2010年1月23日

  • 予告編を見る

「ミポリンとオリエンタル・ホテルが美しい!だけだった...」サヨナライツカ こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5ミポリンとオリエンタル・ホテルが美しい!だけだった...

2010年1月13日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 予想はしていたが、やはり久々登場の中山美穂は美しかった。実年齢より15歳以上若い設定の役どころだったが、妖艶で可愛らしい、魅力的な女性を見事に演じきっていたのは、懐かしさを通り越して見とれてしまうくらいだった。
 そして、中山美穂演じるトウコが泊まっているバンコク有数の豪華ホテルのオリエンタル・ホテルの美しさも絶品。特に、トウコがいる部屋「サマセツト・モーム」の華麗さは驚くばかりだった。オリエンタル・ホテルは、モームやジョセフ・コンラッドなどの宿泊した有名作家たちの名のついた部屋があり、たぶん原作者もそれにあこがれて泊まった感動を、そのまま映像化したかったのだろう。その原作者の思いは充分に伝わっていたと思う。

 サマセット・モームと言えば、長い年月を経ても愛を失っていなかった女性が登場する、一種のファム・ファタール(運命の女)ものの「剃刀の刃」が知られているが、この作品も、日本に婚約者を残してタイに赴任した男が妖艶な女性に心惑わせ、その相手の女性にとってもそれが忘れられない男となった、ファム・ファタールものと言っていい物語だ。しかし、運命の男と女を描いているにしては、あまりに内容が薄すぎたのにはちょっと失望してしまった。

 何より気になったのは、尺か長過ぎたことだ。この内容で2時間10分以上もそうだが、ともかく、ムダなシーンが多すぎる。物語に関係もなく、あまりわさわざ入れる意味も感じない演出が多すぎるのだ。それによって、主人公の男女がかわすお洒落な会話も空回りしてしまうし、男性側に愛だけでなく人生にさえも真剣さが感じられなかったのは、どうにもいただけないことだった。また、ファム・ファタールものにしては後半があまりに演出が軽くなってしまっていたのは、前半を長くしてしまったからではないかと思う。

 はっきり言ってしまうが、この作品の主人公の男女には、もっと命がけで愛しあってほしかった。命がけの愛、などと言うと、「ダサイ」と言う人もいるだろうが、運命の男女ならば、命も周囲もかえりみず、真剣に愛を貫く、という姿を画面から見せるくらいでないと、映画ではリアリティーが出てこないのだ。試写会に来ていた女性たちもイマイチ、という表情をしていたが、おそらく多方の会場の観客は、この作品の愛の形にはあまり納得はしていなかったろうと思う。

 2時間以内、100分くらいに編集していればもう少し、いい内容になっていたかもしれない。ただ、その前に演出する側に、もう少し、命がけに人を思う、全身全霊をこめて愛する人間の姿を観察する力を持つべきではないか、といささか偉そうだが感じてしまう、残念な作品だった。

こもねこ