劇場公開日 2008年11月22日

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「観客からは見えてますよ・・・ジュリアン・ムーアさん。」ブラインドネス kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0観客からは見えてますよ・・・ジュリアン・ムーアさん。

2018年10月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 全世界が失明するという設定からはパニック映画しか想像できなかった。人々は戸惑い、食料を求めて大混乱に陥る・・・やがて宇宙人が現れ、人間の脳味噌を食べ、地球を破滅に導くような・・・だけど、違った。

 原因も感染経路もはっきりしないし、たった一人の女性だけが失明(厳密に言えば、ちょっと違う)しない。だけど、そんな疑問はどうでもよくなるくらいのシミュレーションが冴えていた。まずは伊勢谷友介が突如視力を失う。親切そうに彼の車で自宅まで送る男、診察した医者のマーク・ラファロ、そして伊勢谷の妻・木村佳乃、と伝染病のように次々と目が見えなくなっていくプロローグ。最初に感染した者たちは強制的に隔離施設に収容されるのですが、映画の大部分を占める収容所内での出来事が見事に描かれてました。

 まるで文化センターの盲人体験のような光景が繰り広げられ、視覚障害者の苦労がよくわかる入院直後。しかし、生活をするとなると、食事や排泄などの過酷な状況もリアルに描かなければならない。また、ジュリアン・ムーアを除いて全員が盲人なので、外見も気にならなくなるし、中には人目(?)を忍んでセックスしちゃうカップルもいたりする。さらに人種の壁を越え、人間の本質を見つめるようになっていく過程も面白いのです。

 最も興味深いのは、閉鎖された空間でいくつかのコミュニティが形成され、世界の縮図とも言うべきコミュニティ間の対立が激化してしまうこと。ラファロを中心とした共和国に対抗して、ガエル・ガルシア・ベルナルが「第三病棟の王だ」と宣言する軍事独裁国家が誕生。食料をめぐって一触即発の緊張感が続き、戦争が起こってもおかしくない状況になるのだ。もちろん、そこには不戦派もいるし、勇気をふりしぼろうとする奴もいる。こうして世の中には戦争が起こるのか・・・と胸がしめつけられるような気分になってしまいました。

 もう一つのストーリーの軸は一人だけ目が見えることの心の乱れ。目が見えないからこそ人の心が見えてくる・・・といった能力がムーア一人だけが得られないのだ。それに皆の世話をしたりするのも心労が絶えないだろうし、せいぜい防毒マスクを装備した軍人をからかうことで気を紛らわせるしかないといった感じ。連帯感も一人だけ中途半端だったことは、最初に身を売ることになったときに、凶器を使って楽に暗殺できたのにほとんど反抗できなかったことでもわかります。

 終盤は荒廃した街並みと彷徨う人々を映し出しますが、ここにきてストーリーは落ち着きを見せ、テンションも下がってきました。異常な経験の中での連帯感や人種を越えた愛情などは微笑ましくも感じるけど、映画全体の印象まで薄くなってしまいました。

 日本語にまで字幕が付いていたのは聴覚障害者にも配慮したためか?などと考えながら観ていると、意外にも笑えるシーンがいっぱいありました。特にサングラスをかけた娼婦のアリシー・ブラガの行動。誰も見てないってのに、気にしちゃって・・・職業も隠したままだったけど、ダニー・グローヴァーが美味しいところを持ってっちゃったので良しとしましょう。

kossy