劇場公開日 2008年3月1日

「ガチな映画でとても泣かされます」ガチ☆ボーイ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ガチな映画でとても泣かされます

2008年2月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 え~、小地蔵はプロレスファンでして、よく深夜の中継は見ています。
 学生プロレス出身のレイザーラモンHGによって、学生プロレスの存在は知っていました。しかしこの作品の冒頭のシーンで描かれる学生プロレスは、安全第一の余り、打ったり、蹴ったり、飛ばしたりの真似をするだけなのです。
 しかもその演技も子供学芸会並みというお粗末さ。それではお客を呼べないのも頷けます。しかし、これは小泉監督の仕掛けた複線で、冒頭のチープなシーンは複線となって、感動のラストの引き立て役となっていたのでした。

 主役の五十嵐は、事故により一晩で昨日体験した一切を忘れてしまう記憶障害を負ったのです。ケガの功名とは五十嵐のためにあるもので、彼はプロレス研究会入部の発の試合で、手順を忘れてしまい、思わずガチンコで勝負してしまいます。これが観客に大受けで一躍人気者に。全戦全勝の結果に五十嵐は自信を付けます。でもそれは部長が仕掛けた出来レースで、本当は部員がガチンコでわざと負けていたのでした。
 五十嵐の評判を聞きつけた人気タッグチームから、学園祭の興業でのガチンコ対決を申し込まれました。ギブアップの仕方すら忘れてしまい、絶対にギブアップしない部長は試合を受けるかどうか、迷います。けれども、自分の肉体に刻まれたアザや痛みこそ自分が生きている証であの、昨日どんなことがあったのか思い出させてくれそうな気分になれるのと主張して強行出場します。
 試合に向けた合宿で、「おまえの記憶に残らなくても、周りのみんなの記憶に残ればいい」というキャプテン奥寺の言葉が印象的でした。
 試合では、奥寺の心配は的中し、五十嵐は、ボロボロになっても何度も立ち上がり相手に向かっていきます。その姿に感動した奥寺もガチで参戦します。あのダメプロレスが、こんなプロ顔負けの感動的な試合をするのかと思うと、もうそこで涙が止まらなくなりました。
 さらにたたみ掛けるように、五十嵐は部員のみんなに教えてもらい、毎日練習を重ねてきた技を無意識で繰り出します。五十嵐の日々の練習量と障害の重みを知っている部員たちは、教えた技が繰り出せる度に、涙ながらに応援し続けたのです。
 結末は、ぜひ劇場で。

 記憶障害の方には余りポイントを置いていないものの、五十嵐の大変さは良く描かれていました。  例えば、朝起きて昨日のメモと写真をつぶさにチェックし、部室で部員と出会う時の緊張感。毎日が初対面というのは、怖いですよね。
 寝なければ大丈夫かというと、監督はここに大きな落とし穴を用意していたのです。一睡もしないでバに乗り込み、もし転寝したら記憶はパァ!それで試合当日のハプニングにはハラハラさせられました。
 そして、一度メモを無くしてしまうとドンでもない事態に。学園祭の体育館の押さえを別れてしまい、試合が出来ない事態に陥り、キャプテンを激怒させたり、何よりも悲しいのは、サエコ演じる部員あさこに告白するシーンでも、告白したことを忘れてしまい、二度も同じ告白したことをあさこに指摘されてしまいます。
 それでもいい面もあります。
 練習の厳しさも、きつい人の言葉も、一晩眠れば全て忘れるのです。言い換えれば、毎日が新鮮なんですね。だから部員のひとりが繰り出す白けるダジャレも、五十嵐のみ毎回同じネタに大笑いすることができるのです。
 困難な状況を抱える五十嵐を支えている回りの部員たちや家族の優しいまなざしも印象的でした。

 ところで、この物語にはねもう一つの複線があります。五十嵐は、事故以前は司法試験1次にパスしてしまうほど優秀な学生でした。
 銭湯を細々経営しながら、育て上げた父親の「ゆくゆくは弁護士なって」という期待と落胆は激しく、居酒屋では愚痴ってばかり(;_:)息子をこれ以上悪くさせまいとプロレス続行を反対したのです。
 そんな父も、息子が付けていた日記「明日への僕へ」を見て、愕然とします。そこには父親を悲しませる事故にあったことを詫びる言葉が素直に、何度も何度も書き連ねていました。
 哀愁たっぷりの父親役を演じるのは、泉谷しげるさん。いつもの毒々しさを封印して、ごく普通のオヤジを好演しています。アレこの人何という名前の俳優さんだったけというような、変化ぶりで、オヤジの気持ちに思わず感情移入してしまいました。
 特にラストでプロレスの痛みを生き甲斐にする息子と心通わせるカットよかったですね。
 プロレスは、みちのくプロレスの新崎人生社長の特訓を出演者が2ヶ月合宿で受けたそうです。映画自体代役なしのガチンコだったのですね。さらに主演の佐藤隆太は、もっとか細く、弱く見せられるようにと、小泉監督から厳命がおりて、練習しながら体重を5キロも落としたそうです。ラストの見事なドロップキックも練習の成果なのだそうです。そんなガチなところが、この映画の泣かせるところですね。出演者の熱意がビンビン伝わりました。

 あと、泣かせるところではやはり小泉監督ならでは。どことなく『タイヨウの唄』を彷彿させるシーンも多かったです。音楽・撮影面では、製作会社が「ROBOT」だけに、『三丁目の夕日』とも雰囲気が似ていました。

流山の小地蔵