劇場公開日 2010年1月23日

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「おかしな夢を見た気分。 パルナサス一座の奇妙な冒険。」Dr.パルナサスの鏡 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5おかしな夢を見た気分。 パルナサス一座の奇妙な冒険。

2010年2月3日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

楽しい

なんでもギリシャ神話によると、かつて人間の残酷な所業に怒り狂った神ゼウスが、地上の人間を一掃しようと大洪水を起こした際、唯一、完全に沈み切らずにすんだのがパルナサス山だったそうな。

Dr.パルナサスという奇妙な名前の主人公は、カッコよく言えば天災ですら沈められない不屈の人物の象徴、マイナスに言えば悲惨な目にあっても決して懲りない人間の象徴に思える。
これまで数多の天災・人災に見舞われながら、呆れるほどの情熱の力で作品を生み出してきたギリアム監督らしいネーミングだ。

このDr.パルナサスが実に魅力的。
賭け事好きで酒浸りの薄汚いモーロクじいさんだが、娘を想う気持ちと諦めの悪さは超一級。
悪魔との最後の勝負に、非力な老人がチープなトリックひとつで挑む姿は感動的ですらある(卑怯なんかじゃない。それしか武器が無いんだ)。
ラストの引き際や、悪魔に向けた不敵な笑みにはシビれた。かっこよすぎるぜ、ジイさん。

Dr.パルナサス以外にも、チャーミングな悪魔やら口の悪い小人やら、この映画はキテレツだが魅力的なキャラでいっぱい。
ギリアムの映画ではいつも世間の除け者達に愛情が注がれている所が好きだ。どのキャラも欠点だらけで、おまけに善人ですら無いが、人間臭くて憎めない。

『ブラザーズ・グリム』から格段にCGの使い方が向上した映像も見もの。いつものエキセントリックさや毒は薄めだが、次から次に繰り広げられる夢の世界はカラフルで奇妙で可笑しくて俗っぽくて時々不気味で、ギリアムらしい皮肉っぽいユーモアに満ちている(ロシアンマフィアも震え上がる警官隊ダンスが最高に笑える)。

まるで何の脈絡もない夢をそのまま映像化したかのような不思議な作品。
何が何でも作品を作り上げてやるというスタッフ一同の情熱と試行錯誤が生んだ怪奇な快作だ。

最後に、ギリアム世界の住民としてバッチリ物語の中盤を引っ張ってみせたヒース・レジャー。つくづく惜しい役者さんを亡くしたと思う。素敵な遺作でした。

浮遊きびなご