劇場公開日 2010年4月10日

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「衝撃のラストが待ち受ける怒涛の社会派アクション」第9地区 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5衝撃のラストが待ち受ける怒涛の社会派アクション

2010年4月20日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

いやはや凄い映画だった。

『人類がエイリアンを難民として受け入れたら』という着眼点からして驚きだが、それをまるで報道ドキュメンタリーのように見せた点が凄い。
いや、ドキュメンタリーっぽく撮った映画なら幾らでもある。けれど徹底して報道番組っぽく仕立てて見せたのは珍しいんじゃないかしら。
荒唐無稽な話にリアリティを持たせるだけでなく、話の全体図が理解し易く、説明臭さも感じさせない。
実に巧みだ。しかもこれら報道シーンと物語の本筋を描くシーンの切り替えに全くぎこちなさが無い点も◎。

この映画がアパルトヘイトとエイリアン隔離政策をダブらせているのはもはや周知の事と思うが、この辺りの描写は相当に惨い。
エイリアン達の扱いはまるで虫ケラ同然。金儲けの道具か、銃の的にされる程度の利用価値しか与えられない。
主人公ヴィカスに協力する羽目になるエイリアンも“クリストファー・ジョンソン”なんて名前を付けられている。きっと本名は発音しづらいから、隔離した連中が勝手に呼び易い名前を付けたんだろうなぁ……そう思うと無性に泣ける。

エイリアン退去の事務処理を担当する主人公も、彼らをまるきり害獣のように扱ってみせる。その主人公がエイリアンと同じ立場に叩き落とされてから、映画はノンストップアクションに変貌。ここからすんげぇ面白くなる。

ほんの20年くらいで宇宙人と人間が言語交流できる?とか未知の道具をフツーの人間が簡単に使いこなせるか?みたいなツッコミは途中で幾つか浮かぶが、それらのツッコミ全てを「いいじゃねぇか面白いんだから!!」の一言で飲み込むその怒涛のエンタメ性!
アクションシーンの演出に真新しさがある訳では無いが、そこに感情を乗せるのが巧い。
特にクライマックスの主人公の凄まじい暴れっぷりは、惨い仕打ちを受けた主人公の怒り、そして監督自身が感じている怒りを思い切りぶちまけているかのようだ。

そしてラストシーン。
予測出来なかった、まさかこんな最後が待ち構えているとは。
衝撃に襲われた後、切ない気持ちが込み上げてくる見事な幕切れ。
ごみ溜めの鉄屑が、醜悪な怪物が、あんなにも美しく見えるとは。

人種隔離政策への痛烈な批判で始まり、「人や物事の美しさは外観やルーツだけで判断できるものではない」というストレートなメッセージで締める。娯楽性に満ちていながら、一本スジの通った気骨のある作品。傑作です。

<2010/4/10鑑賞>

浮遊きびなご