劇場公開日 2010年4月9日

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「ミステリーものでもスコセッシの作品は面白い!」シャッター アイランド 松本一輝さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ミステリーものでもスコセッシの作品は面白い!

2021年8月19日
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現実は残酷で切なく辛いから、虚構の世界に逃げるのも間違っているとは言えないのではないか。
スコセッシが挑んだミステリーという新境地、先が読めるようで読めない展開と、不安や恐怖を煽らせる演出、更には現実と妄想での二面性を帯びたキャラクターの描かれ方が、最後まで観客に飽きさせることなく作られていて、流石だった。
現実は実際に救いようがなく、虚構に逃げ込んでしまう主人公をよく理解できた。その上で本編に多々散りばめられている不自然な点は、全て最後の伏線だったのかと思うと素晴らしい。
本作は俳優が、現実と妄想の2つのキャラクターを演じなくてはならないので、かなり大変だと思うのだが、しっかり演じ分けられていたと思う。ディカプリオは流石としか言いようがないが、個人的にマーク・ラファロの安定感ある演技も素晴らしかった。
本作は、ただのミステリーに収まらず、人間が抱える罪悪感を独創的に、どのように向き合っていくのかということが描かれていて、スコセッシっぽい作風だった。彼は"最後の誘惑"から付きまとう"人はどのように罪と向き合わなくてはならないのか"という答えのない問を、映画で表現し続けているのだろう。
ただ唯一残念だったのが、本作がロボトミーを肯定しているということだ。最後のシーンでディカプリオは、現実に戻ってきたが、その罪を背負って生きていくのが辛すぎるため、現実を放棄する選択をする。辛いことから逃げること自体は、罪に対するひとつの解であるから、問題ないのだが、その手段がロボトミーであり、更に自ら進んで廃人となり、自ら思考することを放棄して一生を凄すという選択をしたということだ。このラストはあまりにも残酷で悲しいが、ちゃんと罪に対する解も描けていて素晴らしくもあった。脚本を読んだ時、このラストを見て、本作の監督を引き受けたスコセッシも納得できる。

松本一輝