劇場公開日 2022年12月23日

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「中学生の初々しい恋物語かと思いきや、結構キワドイネタで右往左往するフランス版『サザエさん』」ラ・ブーム よねさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0中学生の初々しい恋物語かと思いきや、結構キワドイネタで右往左往するフランス版『サザエさん』

2022年12月27日
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鑑賞方法:映画館

歯科医の父フランソワと漫画家の母フランソワーズとともにパリに引っ越してきた13歳のヴィック。すぐにおませな妹サマンサに手を焼いている同級生ペネロプと意気投合、意気揚々とパーティ(ブーム)に出かけた彼女はそこで出会ったシェフになることを夢見る少年マチューと出会い初めての恋をするが、同じ頃フランソワが開業した歯科に招かれざる客が現れて・・・。

とにかくビックリしたのは思春期映画ではなく、ベレトン家の人達が右往左往するのを温かく見守る『サザエさん』ならぬ『フランソワーズさん』だということ。すなわちフランソワがマスオさんでヴィックがワカメちゃん、そしてヴィックのひいおばあちゃんプペットが舟さんみたいな立ち位置。勝手な想像ですが当時東宝東和が『エンドレス・ラブ』を大ヒットさせたので松竹富士が対抗馬として探してきたのが『ラ・ブーム』で、ファミリー映画を巧みな宣伝でアイドル映画に仕立て上げたのではないかと。ということで確かにソフィーの初々しい魅力も眩しいですが、両親には真似出来ない大胆なアプローチでヴィックをサポートするハープ奏者のプペット、そして自分の作品が認められてバンド・デシネ作家としてどんどん多忙になっていく中でフランソワともヴィックともすれ違ってしまうフランソワーズの魅力の方が全然上回っています。特にこの二人がタッグを組んで大暴れするカットの爽快感は格別。母と思春期の娘が真正面からぶつかり合う様は『レディ・バード』のそれを彷彿とさせるリアルなものだったことも印象的です。

作りとしてはフレンチバカ映画の体裁なので、ヴィックの悪友達が映画館でやってのけるシャレ(というか猥褻物陳列罪)とかいかにもフレンチな突き抜けたエスプリがこれでもかと注入されているのも圧巻。この辺りは本作へのリスペクトを思い切り滲ませていた『サニー 永遠の仲間たち』にもしっかり受け継がれていたように思います。もちろん当時名場面とされていたマチューがヴィックにウォークマンを聴かせるカットはしっかりセンチメンタルに満ちているところはさすが。これでもかと繰り返し流れるリチャード・サンダーソンの『愛のファンタジー』が何度も涙腺を刺激されました。あとヴィックの部屋に貼ってあるポスターがアンディ・ギブの『アフター・ダーク』にヴァン・ヘイレンの『暗黒の掟』とザッツ80年であるところにもグッときました。

40年の時を経て初めて観た本作は勝手に想像していたものとは全く異なるものでしたが、それはどこを切ってもフレンチだなと思いながらエンドロールを眺めていてフランソワーズを演じていたのが『禁じられた遊び』の無邪気な少女ポーレットを演じてたブリジット・フォッセーだったことに気づき戦慄しました。あの子が40年前にこんな立派なお母さんになっていたとは!

よね