劇場公開日 1960年4月1日

「神話的英雄への昇華」ベン・ハー(1959) pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0神話的英雄への昇華

2022年8月11日
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鑑賞方法:DVD/BD

楽しい

興奮

知的

幼少期に強烈な影響を受けた大好きな作品の一つ。
しかしながら、当時観ていたのはTVの洋画放映。大幅なカットが入り、声はもちろん納谷悟朗。
初回鑑賞時は、白と黒の馬車競走とガレー戦くらいしか覚えていなかった。
2度目の放映時はストーリーは追えたが、やはりお子ちゃまなのでまだ古代ローマ史の知識などは薄い。タロットカードを独学していたので「古代2(or4)頭立て戦車=チャリオット」という概念はこの時に覚えた。(タロットなるものの存在を知る日本人は滅多にいなかった時代。解説書は木星王さんの著書以外は数点しかなかった。)
とにかく「テルマエ・ロマエ」(原作)でもパロディシーンが登場するように「ベンハーと言えば、チャリオット」というのは異論ないところであろう。

だから成人後、ようやくVHSビデオにて完全版を観られた時には「こんなにキリスト教色が強かったのか」「こんなに長かったのか」と改めて驚いたものである。映画なのに幕間休憩あるし(笑)

さて、ジョーセフ・キャンベル著「千の顔をもつ英雄」をベースに本作を分析していくと面白い。
キャンベルは「世界中の神話・民話を集め分析すると、類似点、一貫したパターンが見えてくる」という。

英雄(ヒーロー)は、日常の世界から自然を超越した領域へ冒険に出る。途方もない力に出会い、勝利を手にする。仲間への恵みをもたらす為に、不可思議な冒険から帰ってくる。

起承転結の「起」か、或いはそれ以前の設定にて、ヒーローは親との悲劇的な別離を経験しており、「承転」の旅の途中でなんらかの成長・覚醒を迎え、難題を解決し、「結」で帰還する。
分離(セパレーション)→通過儀礼(イニシエーション)→帰還(リターン)の流れに沿ったいわゆる貴種流離譚が見えてくるのだが、キャンベルの分析はこれだけでは終わらない。

「おとぎ話の英雄は小宇宙的な勝利、つまりは個人的な勝利を掴む。
神話の英雄は大宇宙的な勝利、つまり自身の属する社会へ変革をもたらす結果を得る。」
というのだ。
なるほど、「ロード・オブ・ザ・リング」や「スター・ウォーズ」最近の作品では「ONE PIECE」なども確かに「神話の英雄」の物語だ。対して「ドラえもん」ののび太は「おとぎ話の英雄」なのだな、と納得。

そう考えると、90年代の「エヴァンゲリオン」を筆頭に当時 雨後の筍のように増殖した「セカイ系作品」に対して私が嫌悪感を抱いた理由が腑に落ちる。
本来「おとぎ話」でしかなくそれに見合った通過儀礼を辿る主人公が、自分を取り巻く社会的システムの複雑さを理解する事もなく(この点は主人公ではなく、作者の知識経験の浅薄さに寄る)、それなのに「神話の英雄」的な功績に帰結する点に矛盾と違和感を覚えた為だったのだ!そこにチャイルディッシュな独り善がりが強く漂うから好きになれなかったのだ。
う〜む、非常に納得。

さて「ベン・ハー」だが、あらすじの骨子だけならばキリストを絡めなくても「青年ベン・ハーが幼馴染にして宿敵メッサラに復讐する。」というだけでも成立する。
ジャッキー・チェン映画などはそのパターンばかりだと言ってもいい。スポ根作品やアクション大作も大抵はその類だ。充分「スペクタクル娯楽大作」になるだろう。しかし、これだと「おとぎ話の英雄」の域を出ないのだ。

本作はキリストの生誕で始まり、死と復活の奇跡をもって終わる。
ジュダ・ベン・ハーとキリストを絡めることにより、ベン・ハーの冒険は世界(ローマの圧政)に変革をもたらし、本作は「神話の英雄譚」としての荘厳さ、壮大さを有する作品へと昇華されるのだ!
人の創造する作品においては、神話英雄がおとぎ話英雄より上位にあるとは思わない。おとぎ話の方が、鑑賞者にとっては身近であり主人公の心情がより深く心に刺さる事もある。

しかしながら、本作においてはベン・ハーとキリストの生涯を交錯させた設定が物語に深みを与え、より強烈で荘厳で壮大な感情の起伏を惹き起こした事は間違いないであろう。
映画史に残る屈指の名作となった理由の一つがこの物語、ルー・ウォーレスの原作小説の秀逸さと、そこを尊重した脚本にあるのだと、改めて深く感じ入るものである。

2016年版の視聴はこれまで敢えて避けていたが、この観点を踏まえた場合どのような作品に仕上がっているのか興味が出てきた。
近々、鑑賞してみたいと思う。

pipi
LaLaさんのコメント
2022年8月11日

PiPiさん こんにちは (^^)/

共感&コメントを ありがとうございます。
「ベン・ハー」 大作ですね。
私は、幼少の頃に、父が観ていた
テレビ映画を傍で、観ていることが多かったのですが
そのひとつに この作品がありました。
父の解説(笑)付きで・・・
その時は、意味もわからずでしたが
キリストの後ろ姿や
病の谷にいる家族に
奇跡が起こるシーンに涙したものです。
大人になって、DVDで観なおしてみたら
なんて、凄い映画なんだろうと
とても、感動したのです。
長編なだけに インターミッション入りますよね。
「アラビアのロレンス」や
「風と共に去りぬ」
「ウエスト・サイド・ストーリー」等も
そうでしたね、
私、「十戒」は観ていますが(レビューしていません)
「天地創造」はまだ観ていなくて 💦
PiPiさんも、子供の頃に
テレビで各名場面を覚えていらっしゃったのですね。
(水戸黄門・・)
私も好きで 印籠を見せる場面が45分頃で
毎回、楽しみでしたよ(笑)

さて、PiPiさんの
レビューの凄さに感動です。

戦車競走シーンが迫力満点!でしたね。
チャリオットと言うのですね。
教えてくださり ありがとうございます。(^^)/

タロットカードを独学で覚えられたのですね。
それも 凄いです。
私も
学生時代に お気に入りの漫画があり
そこに登場するタロット占いに興味を持って
一組 持っていますが(^^ゞ
全く わかりません・・・
でも、絵柄がステキで、色彩も綺麗ですね。
今でも、保管できています。
正位置と逆では、意味ががらっと変わること
遊び半分ではしてはいけない事等
そのくらいしかわからなくて(^^ゞ

>起承転結の「起」か、或いはそれ以前の設定にて、ヒーローは親との悲劇的な別離を経験しており、「承転」の旅の途中でなんらかの成長・覚醒を迎え、難題を解決し、「結」で帰還する。

「起承転結」その表現も素晴らしいですね。
確かにそんな感じですもの。

2016年版のが存在すること
恥ずかしながら 知りませんでした。(^^ゞ
モーガン・フリーマンさんが出ているようですね。
気になります(^^)/

こんなコメントですみません(^^ゞ
気にかけてくださり
ありがとうございました☆彡

LaLa
NOBUさんのコメント
2022年8月11日

コメントありがとうございます。仕事中ですが、ズルして。今作品は正にコロナ禍が、始まり映画館が全て休業した後に徐々に再開し始めた頃、その名も【安城コロナワールド】が、名作特集を始めてくれた時に見ました。故にお客さんは殆ど居なくて、ど真ん中のやや前が定席の私はナカナカ始まらない状況に焦ったと言う訳です。では😃

NOBU