劇場公開日 2022年5月13日

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「春の優しさ、自然な優しさ」春のソナタ penさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0春の優しさ、自然な優しさ

2023年3月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「自然な呼吸の感じられる映画を作る」と言うのは、簡単なようでいて、実は難しいのではないかと常日頃思っています。人物の微妙な表情や囁くようなセリフを、時間の流れそのままに写し取ることができる映画は、自然さをとらえることにおいて、演劇よりも、より親和性があるように思いますが、映画を時間の芸術だと言って長回しを多用したタルコフスキー作品や、同じく長回しを特徴とするアンゲロプロスの作品には、詩的創造はあっても自然な呼吸は存在しなかった様に思います。

美しい春の花がいっぱい咲いた別荘や、カントの著作を題材にした哲学談義等々、あくせく働くわが日常とは隔絶された、なかなかの異空間なのですけれど^_^、そこで波紋のように広がり、様々な表情を見せる感情の動きは、異空間でもなんでもなく、私のような平凡な日本人でも手に取るようにわかりやすく、かつ自然に呼吸できる、不思議な豊かさの感覚に溢れている様に思います。

ぎくしゃくしていたその関係が、まるで春風になびいて、花びらが地面に落ちるような偶然の出来事をきっかけに、ホッと溶解した時、画面いっぱいに、溢れ出る自然な優しさの感覚。その感覚が「春のソナタ」と言う軽妙で、素敵で、繊細な味わいを持つ一片の音楽であるということに気づくのにあまり時間はかかりませんでした。エリックロメールの「四季の物語」の中では、本作が一番好きです。

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