「アナスタシア皇女伝説の戯曲の枠に収まった映画だが、バーグマンの気品と演技力は流石に素晴らしい」追想(1956) Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0アナスタシア皇女伝説の戯曲の枠に収まった映画だが、バーグマンの気品と演技力は流石に素晴らしい

2020年9月15日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

イングリッド・バーグマンのアメリカ映画復帰一作目。十月革命の翌年1918年に銃殺されたロシア皇帝ニコライ2世の末娘アナスタシア皇女が、一族の処刑からひとり救出され生き延びているという伝説の戯曲の映画化。舞台は1928年の巴里で、史実では27歳に当たるアナスタシアに仕立て上げられる記憶喪失の娘アンナ・ニコルを40歳に差し掛かったバーグマンが可憐に演じる。イングランド銀行にある1000万ポンドのロマノフ家の遺産目的のボーニン将軍役にユル・ブリンナー、デンマークで余生を過ごすマリア皇太后役に舞台出身の名女優ヘレン・ヘイズと、主要三人の俳優メインの舞台劇の趣向が強く、映画的な広がりや展開の面白さは欠ける。それでも、皇太后のお墨付きを得ようとデンマークまで足を運び、何とかアンナと皇太后を面会させる場面の、バーグマンとヘイズの最後抱き合うまでの演技が見所になっていて、アナトール・リトヴァク演出の巧さがある。記憶喪失の不安気な精神状態と、王族の威厳を身に付けた気品の両面を見事に演じるバーグマンが、流石の素晴らしさで、「ガス燈」に続くアカデミー賞受賞は理の当然であろう。また、表情を抑えて眼光の熱さで感情を表現するブリンナーの彼だけの魅力も充分出ているし、未だロマノフ王朝の栄華を引き継ぐ皇太后の機知と峻厳さの人間味を漂わすヘイズの演技もいい。
話としては最後あっさりしていて感心しないのだが、アメリカ映画の名優の演技が堪能できるアナトール・リトヴァク監督の個性的ハリウッド映画になっている。

Gustav